カフェラテと聞くと、まろやかで飲みやすくて、やさしい ── そんな印象ですね。
でもある日、カフェラテを初めて飲んだ子どもがこう言いました。
『ミルクの中に、コーヒーがかくれてる』
それがエスプレッソ ── 濃くて小さな30ml。
そう、ミルクはエスプレッソを整える“構造素材”なのです。
この記事では、『カフェラテ=エスプレッソ主役』という視点から、ミルクである理由、泡の役割、温度の設計、そして文化的習慣まで ──
“やさしい味”がどうやって作られるのか、わかりやすくご案内いたします。
ミルクの中にコーヒーがかくれてる
ふわふわの泡に、まろやかな香り ──
カフェラテは『甘くてやさしくて飲みやすい』というイメージです。
イメージには、コンビニなどによって広まった『カフェラテ=甘いもの』という先入観も混ざっています。
カフェラテを初めて口にした子どもがこう言いました。
『ミルクの中に、コーヒーがかくれてる』 ── 。
お洒落な子どもですね。
しかしそのひとことには、味覚のしくみに対する優れた観察が隠れています。
☕ そう、奥には、たった30ml ── 濃密なエスプレッソが、そっと隠れていました。
魔法の30ml ── それがエスプレッソ
味全体を支える“設計の中心”
エスプレッソは、9気圧という高圧で短時間抽出される、非常に密度の高い液体です。
酸味、苦味、甘味、香り、油分 ── すべての要素が凝縮されています。
わずか30ml ── この少量の濃縮液が、味覚の中心を支えています。
☕ カフェラテのおいしさは、エスプレッソという“芯”ががあるからこそ成立します。
ミルクは“整える素材”である
ミルクは、そのエスプレッソを活かすために選ばれた素材です。
“弱める”ためではなく、“活かす”ための科学的な役割があります。
- タンパク質(カゼイン):泡のネットワークを形成
- 脂肪分:苦味の角を包み込む
- 乳糖:自然な甘味を引き出す
- ミネラル:味の輪郭に厚みを加える
☕ ミルクは“弱める”ためではなく、“エスプレッソを活かす”ために選ばれているのです。
“やさしさ”は設計されていた
バリスタはエスプレッソを整える技術者
カフェラテの『やさしさ』は偶然ではなく、設計された構造です。
バリスタは、泡の粒度、脂肪濃度、温度 ── それらを整えることで、エスプレッソを飲みやすく、でも存在感を損なわないように仕上げます。
- 泡の粒度:舌ざわりの一体化
- 脂肪濃度:苦味の調整
- 温度:香りと甘みの引き出し
☕ 飲みやすくて印象に残るカフェラテは、“設計されたエスプレッソ”が中心にあるからこそ完成するのです。
バリスタの三献茶
三献茶の心でもてなすバリスタ。
さすがにカフェラテ3杯お出しすることはありませんが、外気が寒い日や、朝方、またゲストの表情など様々な情報をもとに、有名な『秀吉と三成の三献茶』の心で、ミルクの温度を微妙に変えるバリスタもいます。
これは単なる気遣いではありません。
☕ ミルクの温度が変われば、“30mlの見え方”が変わる。まさに味覚の設計です。
秀吉と三成の故事
鷹狩の帰り豊臣秀吉が、近江の寺に立ち寄り、秀吉が喉の渇きを癒すためにお茶を求めた際、小姓は3回に分けてお茶を出した。
- 1杯目:大きな茶碗にぬるめのお茶をたっぷり( 喉の渇きをすぐに癒せるよう配慮)
- 2杯目:やや熱めのお茶を少なめに(味わいを楽しめるよう調整)
- 3杯目:熱いお茶を小さな茶碗に少量(休憩の終わりを察し、立ち去る前に一服できるように)
小姓は少年時代の石田三成でした。
addCffee もこの心をスタッフに説いています。
本場イタリアでは
イタリアでは、カフェラテは“朝しか飲まない”という習慣があります。
昼や夜になると、エスプレッソ単体を飲むほうが主流です。
カフェラテは、午前の緩やかな時間に、濃縮されたエスプレッソをやさしく包む構造なのです。
☕ 時間と味が設計された文化的装置 ── それがカフェラテなのです。
また、あるカフェでは、泡の上に願いごとを書く文化がありました。
『今日が良い日になりますように』
『あと一歩だけ頑張れるように』 ── そんな言葉が泡に浮かんでいました。
☕ 飲みものに気持ちが込められている、それがカフェラテという飲みもののやさしさでもあります。
飲み終えたあとに、エスプレッソの記憶が残る
次に飲むカフェラテは、きっと見え方が変わる
カフェラテは、飲みやすい。
でも、飲み終えたあとにわずかな苦味や香ばしさが残ります。
それは、ミルクが“消した”のではなく、“支えた”痕跡。
☕ エスプレッソという小さな存在 ── 30mlが、最後までそこにいた証なのです。
ミルクの甘さだけでなく、泡の触感、温度の設計、そして奥にある“味の輪郭”。
それらすべてが、エスプレッソの見え方に関わっています。
それらを感じながらカフェラテを飲んだとき、きっと『やさしい=弱い』ではないことに気づくはずです。
☕ 飲みやすさの中に隠れていたのは、“小さな濃密さ”だった ── そう気づく一杯になるでしょう。
浅煎りのカフェラテ
絶対試してもらいたいカフェラテが、スペシャルティコーヒー浅煎りを使ったカフェラテです。
スペシャルティコーヒーでなければいけません。
エスプレッソを意識してこなかった方は、奥に潜むコーヒーに少し集中してみてください。
いままで飲んだことないカフェラテに出会うことを約束します。
飲んだけど『よくわからない』という方も大丈夫!
よくわからなくても、だまされたと思って、スペシャルティコーヒー浅煎りのカフェラテをしばらくの間飲み続けてください。
しばらくしたら、今までのカフェラテに戻ってみます。
苦みが目立ちフルーティな奥行きが無くなったことを、ハッキリ感じるはずです。
Coffee ナビ ── カフェラテはエスプレッソが主役
- カフェラテのやさしさは、濃くて小さなエスプレッソが整えられているからこそ成立します
- ミルクはエスプレッソを“包む”だけでなく、“活かす”ための科学的構造を持っています
- 泡のきめ・脂肪濃度・温度帯は、すべて味覚設計の要素です
- やさしさは、ただ弱くしたのではなく、“エスプレッソの強さ”を支える構造によって生まれています
- 次にカフェラテを飲むときは、“隠れていたエスプレッソ”に、ぜひ目を向けてみてください
☕ 『ミルクの中に、コーヒーがかくれてる』 ──
その言葉が示していたのは、カフェラテという飲みものの見えない設計図だったのです。