コーヒー栽培の99%は、赤道を中心とした『コーヒーベルト』と呼ばれる地帯です。
そして、コーヒーの品種は実に約130種ほど特定されていますが、大量に栽培されるコーヒー豆は『アラビカ種とロブスタ種』の2品種です。

アラビカ種 vs. ロブスタ種の違い早見表
コーヒーパッケージで『100%アラビカ種』という表示を強調するのは、コーヒー品質が大きく違うからです。
味わい、栽培方法、用途において決定的な違いがありますので、その特徴を見ていきましょう。
| 特徴 | アラビカ種 | ロブスタ種 |
| 味わい | フルーティーで繊細な酸味、甘みとまろやかさ | 苦味が強く、土っぽく木質的 |
| 産地 | ブラジル、コロンビア、エチオピア、グアテマラ | ベトナム、インドネシア、ウガンダ、インド |
| 標高 | 高地(1000~2000m) | 低地(0~800m) |
| 気温 | 16~25°Cの涼しい気候 | 19~32°Cの高温多湿 |
| 降雨量 | 年間1500~2500mm | 年間2000~3000mm |
| 病気の耐性 | 弱い(デリケート) | 強い(タフ) |
| カフェイン | 0.8~1.4% | 1.7~2.7% |
| 糖分 | 多い(約2倍) | 少ない |
| 脂質 | 多い(60%増) | 少ない |
| 価格 | 高価 | 安価 |
| 主な用途 | スペシャルティコーヒー、ドリップコーヒー、高品質エスプレッソ | インスタントコーヒー、缶コーヒー、エスプレッソブレンド |

アラビカ種とロブスタ種の味わい
コーヒーを飲む上で重要なのは、やはり味わいです。
アラビカ種とロブスタ種は、化学組成の違いから、まったく異なる味のプロファイルを持っています。
アラビカ種
複雑で洗練された味わい
アラビカ種は、フルーティー、フローラル、そして心地よい酸味が特徴です。
その理由は、豆の成分構成にあります。

アラビカ種はロブスタ種と比較して、糖分が約2倍、脂質が60%多く含まれています。
この糖分と脂質が、甘みとまろやかな口当たりを生み出します。
花のような香り、ベリー系のフルーティーな香り、ナッツやチョコレートのような甘い香りなど、多様なアロマを楽しめるのがアラビカ種の魅力です。
カフェイン含有量は約0.8~1.4%と控えめで、刺激が少なく優しい味わいになります。
クロロゲン酸は5.5~8%程度で、適度な苦味と豊富な抗酸化物質を含みます。
ロブスタ種
力強い苦味と土っぽさ
一方、ロブスタ種は強い苦味と土っぽい風味が特徴です。
プロのカッパーの中には、ロブスタの味を『焦げたゴム』『木クズ』『ピーナッツの後味』と表現する人もいます。

なぜこのような味になるのでしょうか。
ロブスタ種はカフェイン含有量が約1.7~2.7%とアラビカの約2倍あり、このカフェインが強い苦味を生み出します。
さらに、クロロゲン酸が7~10%と高濃度で含まれており、これも苦味と渋みの原因となります。
糖分と脂質はアラビカ種の半分以下しかないため、甘みや滑らかさに欠け、一次元的な味わいになりがちです。
アラビカ種とロブスタ種の栽培環境
アラビカ種とロブスタ種の味の違いは、育つ環境によって形作られます。
アラビカ種
デリケートな高地の貴族
アラビカ種は、標高1,000~2,000mの高地で栽培されます。
涼しい気候(16~25℃)、豊かな土壌、適度な日陰、そして昼夜の寒暖差が必要です。

高地で時間をかけてゆっくりと熟すことで、豆は複雑な風味成分を蓄積します。
この寒暖差と冷涼な気候が、アラビカ種の洗練された酸味と甘みを生み出すのです。
しかし、アラビカ種は病害虫に弱く、栽培が困難です。
コーヒーチェリーは不均一に熟すため、完熟した実だけを手摘みで収穫する必要があります。
この手間とリスクが、アラビカ種の価格を押し上げる要因でもあります。
ロブスタ種
タフな低地の働き者
ロブスタ種は、標高0~800mの低地で育ちます。
高温多湿(19~32℃)の環境でも力強く成長し、病害虫にも強い耐性を持ちます。

その名の通り『ロバスト(強靭)』な特性を持ち、コーヒーチェリーは一斉に熟すため機械収穫が可能です。
収穫量も多く、栽培コストが低いため、大量生産に適しています。
この栽培の容易さと低コストが、ロブスタ種をインスタントコーヒーや缶コーヒーの主原料とする理由です。
歴史が語る – コーヒーが世界に広がった物語
アラビカ種
エチオピアからイエメン、そして世界へ
アラビカ種の原産地は、エチオピアの高地です。
15世紀、エチオピアからイエメンに持ち込まれたコーヒーは、イエメンの高地で初めて商業栽培されました。
イエメンの港町モカから、アラビカ種は世界中へ広がりました。

17世紀末、オランダ人がイエメンからインドへ、そしてジャワ島へとコーヒーを持ち出し、『ティピカ』の系統が誕生します。
一方、フランス人は1715年にイエメンからブルボン島(現レユニオン島)にコーヒーを運び、『ブルボン』の系統が生まれました。
この2つの系統、ティピカとブルボンが、現在世界中で栽培されるアラビカ種のほぼすべての祖先です。
300年以上かけて、アラビカ種は世界中の高地に広がり、それぞれの土地で独自の個性を育んできたのです。
ロブスタ種
19世紀の救世主、そして大衆化
ロブスタ種が発見されたのは、19世紀後半のアフリカ中央部です。
1860年代から1890年代にかけて、ウガンダやコンゴ地域で野生のロブスタ種が確認されました。

当時、世界のコーヒー農園はコーヒーサビ病によって壊滅的な被害を受けていました。
アラビカ種が次々と枯れる中、病気に強いロブスタ種は救世主として迎えられました。
20世紀初頭、ロブスタ種はインドネシアのジャワ島やベトナムで大規模に栽培されるようになります。
その栽培の容易さと高い収量から、ロブスタ種はインスタントコーヒー産業の発展とともに生産量を伸ばしていきました。
イタリアンエスプレッソとロブスタ

イタリアのエスプレッソ文化において、ロブスタ種は重要な役割を果たしてきました。
20世紀中盤から後半にかけて、ロブスタ種は濃厚なクレマ(泡)を形成し、力強い苦味を加えるため、イタリアのカフェ文化で長らく愛用されました。
しかし、近年のスペシャルティコーヒーの流行により、アラビカ種のフルーティーな香りを活かしたエスプレッソが人気を集めるようになり、ロブスタ種の使用割合は減少傾向にあります。
遺伝子が明かすアラビカ種の起源
コーヒー産業は長年、あとから発見された『ロブスタ種』を『アラビカ種』の『できの悪い兄弟』として扱っていました。
しかし遺伝子配列を解析したところ、この2種は兄弟でもいとこでもなく、なんと、ロブスタ種はアラビカ種の『親』だったのです。

一番の有力説は、『現在の南スーダン共和国(エチオピアの隣国)にあたる地域のどこかで、ロブスタ種がユーゲニオイデス種という野生種と交配しアラビカ種が生まれた』という説。
約35万~61万年前、現在の南スーダンやウガンダ周辺で、この2つの種が偶然交配し、アラビカ種の祖先が誕生しました。
コーヒーの生まれ故郷といわれるエチオピアで急激に繁殖し始めたのです。
アラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種を、『三大原種』とも言われたりしますが、アラビカ種を『原種』とするのは遺伝学的に誤りです。
アラビカ種は自然交配種(交雑種)なので、『原種』ではありません。
🧬 三大原種の誤解
アラビカ種を『原種』と呼ぶ理由は、商業的に『栽培される主要な品種』という意味合い、もしくは、ロブスタ種がアラビカ種の親と判明したのは2000年代に入ってからで、情報がアップデートされていない書籍などを参考とした情報と推測されます。
当サイトでは、流通量の極めて少ない『リベリカ種』を省き『2大原種』ならぬ『2大品種』としました。
アラビカ種の魅力
苦いコーヒーとは違うアラビカ種の魅力
香りの豊かさ
アラビカ種の最大の魅力は、その香りの多様性。
花のようなフローラルな香りや、ベリー系のフルーティーな香りが楽しめます。
コーヒーを淹れると、部屋いっぱいに広がる香りが心を癒してくれます。
酸味のバランス
『酸味』と聞くと苦手意識を持つ人もいるかもしれませんが、アラビカ種の酸味は爽やかで心地よいもの。
柑橘系のフレッシュな酸味や、ワインのような華やかな酸味が特徴です。
まろやかな口当たり
ロブスタ種と比べると、アラビカ種は苦味が控えめで、口当たりがなめらか。
ブラックでも飲みやすく、初心者でも楽しみやすいコーヒー。
健康面でのメリット
アラビカ種はカフェイン含有量が少なく、胃への負担が少なく済みます。
また、ポリフェノールやクロロゲン酸などの抗酸化物質を含み、健康にも良い影響を与えます。
産地ごとの個性を楽しむ
同じアラビカ種でも、育った土地の土壌、気候、標高によって、まったく異なる味わいが生まれます。
この繊細な違いを楽しめるのは、アラビカ種の複雑な風味成分があるからこそです。
| 地域 | 味わい |
| エチオピアのイルガチェフェ | 花のような香りとベリー系の酸味 |
| コロンビアのウィラ | 甘いキャラメルとナッツの風味 |
| グアテマラのアンティグア | チョコレートとスパイスの複雑さ |
品種による味の違い
アラビカ種にはさまざまな品種があり、それぞれ異なる風味を持っています。
それぞれ独自のフレーバープロファイルを持ち、コーヒー愛好家を魅了し続けています。
| 品種 | 味わい |
| ティピカ(Typica) | クラシックなアラビカの風味、バランスが良く、すっきりとした味わい |
| ブルボン(Bourbon) | 甘みが強く、キャラメルのようなコクがある |
| ゲイシャ(Geisha) | ジャスミンのような華やかな香りと紅茶のような繊細な味わい 世界で最も高価なコーヒーのひとつ |
| カトゥーラ(Caturra) | 柑橘系の酸味が際立ち、軽やかな飲み口 |

成長し続けるアラビカ市場
アラビカ種は、コーヒー市場において圧倒的なシェアを持ちます。
世界のコーヒー生産量の約60~70%を占めており、特にブラジル、コロンビア、エチオピアなど主要生産国で、アラビカ種が中心です。
アラビカ種の中でも特に高品質なコーヒーは、スペシャルティコーヒー市場で人気があります。

主要生産国と市場規模
- ブラジル:世界最大のアラビカ種生産国で、年間約4,490万袋(60kg/袋)を生産。
- コロンビア:アラビカ種100%の生産国で、約1,290万袋を生産。
- エチオピア:アラビカ種の原産地であり、約860万袋を生産。

当グラフは、金額のマーケットスケールなので、リベリカ種やエクセルサ種のボリュームが大きいですが、流通量では双方とも1%未満です。
アラビカ種の市場規模は、2033年までに636億米ドルを超えると予測されており、年平均成長率(CAGR)は6.65%とされます。
これは、スペシャルティコーヒーの需要増加や、コーヒー文化の発展によるものです。
アラビカ種は、品質の高さと市場の需要によって、今後もコーヒー業界の中心的な存在であり続けるでしょう。