コーヒーショップで『ピーベリー』という名前を見かけて、通常のコーヒー豆より高額な価格に驚いたことはありませんか?
この小さな丸い豆は、世界中のコーヒー愛好家から特別視されています。

ピーベリーはコーヒー豆5%のレアもの

双子が一人っ子になる瞬間

通常、コーヒーチェリーの中には2つの種子が育ちます。
これらは互いに押し合いながら成長するため、片面が平らで片面が丸い半球状の形になります。
しかし、自然界では不思議なことが起こります。

何らかの理由で2つのうち1つの種子だけが受精し、成長するケースがあるのです。
双子の兄弟がいないこの種子は、チェリー内のスペースを独占し、まるでエンドウ豆のような丸い形に育ちます。
これがピーベリー(Peaberry)と呼ばれる豆です。
スペイン語では『カラコリート(caracolillo)』、つまり『カタツムリ』という愛称で親しまれています。

コーヒー豆5%のレアもの・丸い形状が特徴のピーベリー|鹿児島コーヒー addCoffee

わずか5~7%という希少性

この現象は全収穫量のわずか5~7%でしか発生しません。
コーヒー農園を運営する生産者にとって、ピーベリーは予測不可能な贈り物です。

2023年に発表された遺伝子レベルの研究によれば、ピーベリーと通常豆では139個もの遺伝子に違いがあり、特に花の発育に関わるERECTA遺伝子ファミリーの発現が低下していることが判明しています。
環境要因、受粉不足、栄養状態など複合的な理由が重なり、この『一人っ子の豆』が誕生するのです。

参考:WikipediaBMC Genomic DataPerfect Daily Grind

🌱 ピーベリー5~7%

ピーベリーの収穫比につきまして、年代別、地域別など念入りに調べましたが、3~5%、5%前後、5~10%など情報によりまちまちです。
ハワイ・コナを除いて規則性が見つけられなかったので、近似により5~7%といたしました。

ピーベリーと言えばタンザニア・キリマンジャロ

ピーベリーはあらゆるコーヒー産地で発生しますが、なぜかタンザニア産のピーベリーだけが世界的に特別な地位を確立しています。
なぜ『ピーベリー=タンザニア』という強固なイメージが定着したのでしょうか。

世界的ブランドとして確立したタンザニア・ピーベリー|鹿児島コーヒー addCoffee

1970年代に確立したブランド戦略

コーヒー専門家ケネス・デイビッドス(Kenneth Davids)氏の調査によれば、1970年代のスペシャルティコーヒー黎明期に『タンザニア・ピーベリー(Tanzania Peaberry)』がブランドとして確立され、以降、スペシャルティコーヒー店の定番商品として定着したことが要因です。

この成功の背景には、タンザニアの選別インフラが大きく関係しています。
AMCOS(農業マーケティング協同組合)と呼ばれる組織がタンザニアのコーヒー生産の95%を管理しており、小規模農家は1~2ヘクタールの農地でコーヒーを栽培しています。
この協同組合システムと精製施設の充実により、ピーベリーを通常豆から効率的に分離し、単独商品として販売できる体制が整っているのです。

2023年には、イサイソAMCOSが生産したピーベリーがタンザニアファインコーヒーコンペティションで優勝し、350名の農家会員の努力が報われました。
このような品質管理の徹底と伝統が、タンザニア産ピーベリーの評判を支えているのです。

タンザニアファインコーヒーコンペティションで優勝したピーベリー|鹿児島コーヒー addCoffee

キリマンジャロの理想的な環境

ブランド力だけでなく、タンザニアのコーヒー栽培環境も一級品です。
キリマンジャロ山麓とメル山の斜面は、標高1,350~1,600メートルの高地に位置し、火山性土壌に恵まれています。
冷涼な気候と豊富な降雨量により、コーヒーチェリーはゆっくりと成熟し、複雑な風味を発展させます。

この環境で育ったピーベリーは、明るい酸味、トロピカルフルーツの香り、そしてブラックカラントやパイナップルを思わせる風味が特徴です。
品質の高さと選別体制の充実、そして巧みなマーケティングが三位一体となり、『ピーベリー=タンザニア』という不動のブランドイメージを築き上げたのです。

参考:CoffeeReview 01CoffeeReview 02Genuine Origin

📘 ケネス・デイビッドス(Kenneth Davids)

スペシャルティコーヒー業界の第一人者。
1970年代からコーヒーに携わり、Coffee Review共同創設者・編集長。著書『Coffee: A Guide to Buying, Brewing & Enjoying』は25万部を売り上げ、業界のバイブル的存在。
50年のキャリアを持つ世界的権威で、彼の調査や評価は業界標準として認められている。

焙煎士が”別格”と認めるピーベリー

丸い形状がもたらす均一な焙煎

ピーベリーが焙煎士に愛される理由は、その物理的特性にあります。
通常の平らな豆と比べて、ピーベリーは小さく、丸く、そして密度が高いのです。

丸い形状により均一に焙煎されるピーベリーコーヒー豆|鹿児島コーヒー addCoffee

2023年にコロンビアで実施された科学的研究では、ピーベリーが通常豆よりも速く乾燥し、均一に焙煎され、焦げた部分が少なく、一定の力で崩壊することが実証されました。
丸い形状により、焙煎ドラム内で豆がスムーズに転がり、熱が均等に伝わるため、焙煎のコントロールがしやすいのです。

プロが実践する焙煎プロファイル

しかし、焙煎士たちは注意深くアプローチする必要があります。
プロの焙煎フォーラムでは、ピーベリー焙煎の具体的なテクニックが共有されています。

プロの焙煎士が実践するピーベリー専用の焙煎プロファイル|鹿児島コーヒー addCoffee

推奨される焙煎プロファイル
チャージ温度:370°F(約188℃)と通常より低めに設定
ドライフェーズ:4~5分間の長めの乾燥期間で、密度の高い豆の中心まで熱を浸透させる
ファーストクラック:約8分で到達し、クラックの終わりから50~55秒後にドロップ
総焙煎時間:7分30秒~10分程度

ティッピングのリスクと休息期間の重要性

ピーベリーの密度が高いため、急激な加熱は『ティッピング』と呼ばれる豆の端が焦げる現象を引き起こすリスクがあります。
また、焙煎後は7~10日間の休息期間を設けることで、風味が安定し、本来の味わいが開花します。

ピーベリーが持つ”濃密な甘み”

一粒に凝縮される風味の秘密

『ピーベリーは通常豆よりも甘く、風味が濃い』という主張は、長年コーヒー業界で語り継がれてきました。
この説を裏付ける科学的根拠は存在するのでしょうか。

遺伝子レベルの研究によれば、ピーベリーと通常豆の間には細胞壁修飾、脂質代謝、フラボノイド生合成に関わる遺伝子の発現に違いがあることが判明しています。
細胞壁の構造が異なることで、焙煎時の化学反応パターンが変化し、芳香化合物の生成プロセスに影響を与える可能性があります。

遺伝子レベルで通常豆と異なる構造を持つピーベリー|鹿児島コーヒー addCoffee

栄養独占説の真実

また、ピーベリーは双子がいないため、チェリーが持つ糖分、栄養素、脂質を独占できるという理論があります。
密度が高いことで、単位体積あたりの風味成分が凝縮されている可能性も指摘されています。

カッピングスコアが示す現実

しかし、ここで注意が必要です。
2023年のコロンビア研究では、ピーベリーと通常豆のカッピングスコアは同等であることが示されました。
つまり、ピーベリーの品質は本質的に優れているわけではなく、栽培条件、精製方法、焙煎技術といった他の要素が同等かそれ以上に重要なのです。

プロのカップテイスターであるケレイ氏は『栽培条件が良好な場合、ブラインドテイスティングでピーベリーを常に選ぶ。
より深い甘みのポケット、バランスの取れた構造、明るい酸味を感じる』と語ります。
一方で、『同じバッチからピーベリーと通常豆を識別できない』という意見も存在します。

味わいの違いは主観的であり、個人の嗜好や経験に左右される部分が大きいと言えるでしょう。

参考:Journal of Food Process Engineering

コーヒー愛好家なら一度は試したいピーベリー

初めてピーベリーを購入する際、どの産地を選び、どのように抽出すれば最高の体験ができるのでしょうか。

焙煎度で変わる味わいの表情

ピーベリーは通常、ライトからミディアムローストで最も特徴が引き立ちます。
明るい酸味、フローラルな香り、フルーティーなニュアンスを楽しみたい場合は、ライトロースト。
チョコレートやナッツの風味とのバランスを求めるなら、ミディアムローストがおすすめです。

最適な抽出方法を見つける

ピーベリーの繊細な風味を引き出すには、ケメックスやV60などのポアオーバー方式が理想的です。
クリーンでクリスプな風味特性が際立ちます。
また、フレンチプレスやエアロプレスでは、リッチなボディと残留する酸味を楽しめます。

密度が高いため、通常の豆よりも少し粗めのグラインド設定を推奨します。
微粉が多く発生する傾向があるため、グラインダーの設定に注意しましょう。

希少性を守る保存方法

ピーベリーの希少性を考えると、適切な保存は重要です。
密閉容器に入れ、光、熱、湿気から守ることで、焙煎後2~4週間は最高の状態を保てます。

タンザニア以外のピーベリー

タンザニアが有名ですが、世界中でピーベリーは生産されており、それぞれがユニークな個性を持っています。

ハワイ・コナ|コーヒーのシャンパン

コーヒーのシャンパンと称されるハワイ・コナ産ピーベリー|鹿児島コーヒー addCoffee

マウナロア山とフアラライ山の斜面で栽培されるコナピーベリーは、『コーヒーのシャンパン』と称されます。
ミルクチョコレート、スイートスパイス、生はちみつ、ローストヘーゼルナッツの風味が特徴で、低酸度で滑らかなボディを持ちます。
火山性土壌と安定した温暖気候により、収穫量の3~5%という極めて稀少なピーベリーが生まれます。

興味深いことに、コナではピーベリーの発生率が他地域より低い傾向にあります。
安定した気候条件下では、コーヒーチェリーが通常通り2つの種子を育てる可能性が高いためです。
この希少性がコナピーベリーの価値をさらに高めています。

参考:Honolulu CoffeeBig Island Coffee RoastersCollections of Waikiki

ケニア|ワインのような大胆さ

ワインのような大胆な風味が特徴のケニア産ピーベリー|鹿児島コーヒー addCoffee

ケニア産ピーベリーは、大胆でワインのような風味で知られています。
ブラックカラント、クランベリー、ラズベリーといったベリー系の鮮烈な酸味と、時にトマトのようなセイボリーな風味も感じられます。

ケニア特有のダブルファーメンテーション(二重発酵)プロセスにより、明るい酸味と複雑な風味プロファイルが増幅されます。
SL28やSL34といった品種から収穫されるピーベリーは、グリーンアップル、レモングラス、ルバーブなどの表現豊かな味わいを見せます。

ケニアのピーベリーは、タンザニア産よりも酸味が強く、よりアグレッシブな個性を持っているため、酸味を楽しむコーヒー愛好家に支持されています。

参考:Frontier Coffee RoastersCoffee ReviewJoe’s Coffee House

ブラジル|滑らかなナッティネス

ワインのような大胆な風味が特徴のケニア産ピーベリー|鹿児島コーヒー addCoffee

ブラジルのミナスジェライス州やバイーア州で生産されるピーベリーは、滑らかでナッティな風味が特徴です。
ダークチョコレート、ヘーゼルナッツ、キャラメル、バニラビーンズの甘みがあり、ラズベリーのヒントも感じられます。

ブラジル産は低酸度でクリーミーなボディを持ち、ミディアムからダークローストでその魅力が最大限に引き出されます。
ナチュラルプロセス(果肉をつけたまま乾燥)やパルプドナチュラルプロセスで精製されることが多く、果実の甘みが豆に浸透します。

エスプレッソブレンドやミルクベースのドリンクとの相性が良く、クラシックで飲みやすいプロファイルを求める方に最適です。

参考:Peet’s CoffeeSmokin’Beans CoffeeVolcanica Coffee

世界中で生まれるピーベリー

世界中のコーヒー産地で自然発生するピーベリー|鹿児島コーヒー addCoffee

ピーベリーは世界中のあらゆるコーヒー産地で自然発生します。
コスタリカ、コロンビア、パプアニューギニア、ルワンダ、イエメン、エチオピア —— 理論上、どの国でも5~7%の割合で収穫可能です。

それなのに、『ピーベリー』の販売は、タンザニア、ケニア、ハワイ、ブラジルといった産地地に限られているのでしょうか。

ピーベリー選別インフラ

小さく丸いピーベリーを通常豆から分離するには、熟練した作業員による手作業、または高度な選別機械が必要です。
この労働集約的なプロセスがピーベリーの価格を押し上げる主要因となっています。

高度な選別機械と熟練作業員によるピーベリー選別作業|鹿児島コーヒー addCoffee

タンザニアやケニアのような産地では、協同組合システムや精製施設に選別インフラが整っており、経済的にも選別作業が成り立ちます。
一方、選別システムを持たない産地では、ピーベリーは通常豆と混ぜて販売されてしまいます。

実は、あなたが普段飲んでいるコーヒーの中にも、ピーベリーが紛れ込んでいるかもしれません。
『ピーベリーコーヒー』として購入できるかどうかは、その生産地がのピーベリーピックアップのインフラを整えているか次第なのです。

日本でピーベリーの扱い

欧米では非常に人気のあるPB(ピーベリー)ですが、日本市場におけるピーベリーの扱いは、独特な商慣行があり、ピーベリーを『欠陥豆』として避けます。
大手コーヒー輸入業者は、豆のサイズの均一性を極めて重視するためです。

ただし、日本でも一部の専門店やコーヒー愛好家の間では、希少価値のある豆として少量が流通しています。
このように、同じピーベリーでも市場によって『欠陥』と『高級品』という正反対の評価を受けるという興味深い現象が生じているのです。

ピーベリーを通販サイトで探す

タンザニア(キリマンジャロ)産ピーベリー

ハワイ島ピーベリー

ブラジル産ピーベリー

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