グアテマラ8産地の中で最も温暖多雨
『ボルカニック・サンマルコス(Volcanic San Marcos)』

中米最高峰のタフムルコ火山とタカナ火山に抱かれたこの地域は、年間5,000mmもの降雨量と独特の火山性土壌により、他のグアテマラ産地とは一線を画す個性的なコーヒーを生み出します。
スペシャルティコーヒー市場への新参者でありながら、その独自性で急速に注目を集めるサンマルコスコーヒーです。

この記事は、サンマルコスに特化しています。
グアテマラコーヒーの概要は『グアテマラ8つの産地』をどうぞ。

グアテマラ8つの産地

サンマルコスコーヒーの概要

地理的位置と気候特性

サンマルコスは、グアテマラ南西部、メキシコ・チアパス州との国境に位置する県(デパルタメント)であり、グアテマラの8つの公式コーヒー産地の中でも独特の個性を持つ地域です。
この地域は、メキシコ国境から太平洋沿岸まで広がり、隣接する山岳地帯のケツァルテナンゴ県にも及んでいます。

シエラマドレ山脈の西側斜面に広がるサンマルコスと太平洋|鹿児島コーヒー addCoffee

シエラマドレ・デ・チアパス山脈の西側斜面に位置し、環太平洋火山帯の一部を成す火山地帯として知られています。
標高1,300~1,800メートルの山岳地帯でコーヒーが栽培されており、グアテマラの8つのコーヒー産地の中で、最も温暖で、最も降雨量が多く、最も湿度が高いという三拍子揃った気候特性を持っています。

スペシャルティコーヒー市場での評価

サンマルコスは、スペシャルティコーヒー市場への新参者でありながら、その独自性で急速に注目を集めています。
アンティグアやウエウエテナンゴといったメジャーな産地が目立ち見過ごされがちでしたが、高い標高、豊富な降雨量、そして何世紀にもわたる火山灰による豊かなミネラル含有量を持つ土壌という優れた栽培条件により、独自の風味を持つコーヒーとして国際的に評価を高めています。

スペシャルティコーヒー市場で高評価を得るサンマルコスコーヒー|鹿児島コーヒー addCoffee

中米最高峰の火山が育むサンマルコスのテロワール

タフムルコ火山とタカナ火山

中米最高峰タフムルコ火山とタカナ火山に抱かれたサンマルコス|鹿児島コーヒー addCoffee

サンマルコスの地理的特徴を語る上で欠かせないのが、中米でも最も高い2つの休火山の存在です。
タフムルコ火山は標高4,267メートルで中米最高峰、タカナ火山は標高3,962メートルに達し、いずれもサンマルコス県内に位置しています。
グアテマラ国立コーヒー協会(ANACAFÉ / アナカフェ)は、この象徴的な2つの火山と広範な火山活動の存在を称え、この地域を『ボルカニック・サンマルコス(火山性サンマルコス)』と名付けています。

タフムルコ火山の山頂からは、メキシコ・チアパス州の広大な大地を遠くまで見渡すことができます。
一方、タカナ火山の火口に立つと、グアテマラとメキシコの国境線をまたぐことになります。
この地域はメキシコ国境から太平洋沿岸まで広がり、隣接する山岳地帯のケツァルテナンゴ県にも及んでいます。

雲霧林とケツァール鳥の生息地

サンマルコスの雲霧林に生息する希少なケツァール鳥|鹿児島コーヒー addCoffee

山脈が地域を縦断し、印象的なほど急峻な地形と変化に富んだ標高差を生み出しています。
サンマルコスの高地で栽培されるコーヒーは、山岳地帯と雲霧林に抱かれており、この環境は、グアテマラの国鳥であり、マヤ文化と宇宙観の象徴でもある極めて希少なケツァール(Quetzal)鳥の安息の地となっています。
『羽毛の蛇』としても知られるケツァール鳥とアラビカコーヒーの木は、共にサンマルコスの深い山々に隠れるように生息しています。

シエラマドレ山脈の急峻な地形とマイクロクライメート

サンマルコスの地理的特徴を最も特徴づけるのが、シエラマドレ・デ・チアパス山脈の急峻な地形です。
山々は標高3,000メートルを超える高地から標高1,300メートル付近まで一気に下降し、緑豊かな高温多湿な河川流域へと続きます。
この極端な標高差が、地域内に多様なマイクロクライメート(微気候)を形成する要因となっています。

シエラマドレ山脈の風上側に位置するため、太平洋からの湿った空気が山にぶつかり、驚異的な降雨をもたらします。
まるで鋸の歯のような急峻な地形の斜面で、何世代にもわたるコーヒー生産者たちは、アボカド、ホコテ、チャルムなどのシェードツリーの下でコーヒーを栽培してきました。

🌱 テロワールとは

コーヒーの風味を形成する『土地の個性』を指すフランス語由来の言葉です。
気候、土壌、地形、標高といった自然環境の総体が、その土地ならではの味わいを生み出します。
サンマルコスでは、火山、降雨、標高差が織りなす独特のテロワールが、他では再現できない風味を育んでいます。

独特の気候環境
グアテマラで最も温暖多雨な産地

温暖な気温と高湿度環境

サンマルコスは、グアテマラの8つのコーヒー産地の中で、最も温暖で、最も降雨量が多く、最も湿度が高いという独特の気候特性を持っています。
気温は一貫して21℃から27℃の範囲で推移し、湿度は通常70%から80%の間を保ちます。

年間4,000~5,000mmの降雨量

年間5,000mmの降雨量を受けるサンマルコスのコーヒー農園|鹿児島コーヒー addCoffee

この地域の最も顕著な特徴は、その驚異的な降雨量です。
サンマルコスのコーヒー農園は、年間を通じて少なくとも4,000ミリメートル、多い場所では5,000ミリメートルもの雨を受けます。
これは、グアテマラの他のどのコーヒー産地よりも多い降水量です。
例えば、同じグアテマラのアンティグア産地が800~1,200ミリメートル、コロンビアのコーヒー産地でも1,500~2,000ミリメートル程度であることと比較すると、サンマルコスの降雨量は他の著名なコーヒー産地の2~3倍にも達します。
雨季は他の地域よりも早く、4月中旬に始まり、11月中旬まで続きます。

参考:Spanish Academy AntiguenaEspresso & Coffee GuideSucafina

早期開花と最も早い収穫期

この早期の降雨が、サンマルコス特有の栽培サイクルを生み出します。
雨が早く到来することで、コーヒーの木は他の地域よりも早く開花し、その結果、グアテマラで最も早い収穫期を迎えます。
収穫は早い場所では9月から、一般的には12月頃に始まり、3月まで続きます。

早期の降雨により他産地より早く開花するサンマルコスのコーヒーの花|鹿児島コーヒー addCoffee

これは、アンティグアやウエウエテナンゴが1月から3月、フライハネスが1月から4月に収穫を行うのと比較すると、明らかに早いサイクルです。
この早期収穫は市場において重要な意味を持ち、サンマルコスコーヒーはグアテマラ産の新豆として最も早く市場に届くため、スペシャルティコーヒー市場で『新シーズンの最初の味』として注目を集めます。

収穫期まで続く降雨

特筆すべきは、雨が収穫期にまで継続することです。
この状況は、コーヒー豆の乾燥工程に独特の課題をもたらしますが、同時にサンマルコスコーヒーの個性を形作る重要な要素となっています。

降雨が多く湿度が高い環境は、コーヒーチェリーの成熟をゆっくりと進め、より複雑な風味の発達を促します。
同時に、シェードツリーの下での栽培は、より多様な生態系を支え、持続可能な農業を可能にしています。

火山性土壌がもたらす複雑なプロファイル

アンディソル土壌の科学的特性

サンマルコスのコーヒーが持つ独特の風味プロファイルは、何世紀にもわたる火山活動によって形成された土壌に深く根ざしています。
火山灰から発達した土壌は、アンディソル(Andisols)として分類され、コーヒー栽培において理想的な特性を持っています。

ふかふかと軽いアンディソル土壌の水はけと保水性を示す断面|鹿児島コーヒー addCoffee

アンディソル土壌は、火山灰由来の特殊な鉱物を豊富に含み、ふかふかと軽く、水はけと保水性を両立させる性質を持ちます。
この土壌は有機物を豊富に蓄える能力が高く、肥沃な状態を長期間維持することができます。
つまり、化学肥料に頼らずとも、コーヒーの木が必要とする栄養を自然に供給し続ける『生きた土壌』なのです。

豊富なミネラル含有量と病害虫耐性

火山性土壌は、ミネラルと栄養素の宝庫でもあります。
リン、カリウム、カルシウムが豊富に含まれており、コーヒーの木に天然の栄養素を提供します。
リンは豆内部での糖分の発達を促進し、カリウムは酸味のバランスと甘みを向上させ、カルシウムは細胞壁を強化することで豆の密度を高めます。

これらのミネラルがコーヒーの成長過程で相互に作用することで、複雑で多層的な風味プロファイルが形成されます。
サンマルコスのコーヒーが、明るく、クリーンで、スパイスやチョコレートのニュアンスを持つと表現されることが多いのは、この土壌特性が大きく影響しています。

栄養密度の高い火山性土壌は、より健康で、病害虫に対する耐性の高いコーヒーの木を育てます。
この耐性は、より高い収穫量とより持続可能な農業実践につながり、化学肥料への依存を減らすことを可能にしています。

栄養豊富な火山性土壌で健康に育つサンマルコスのコーヒー苗木|鹿児島コーヒー addCoffee

栽培品種と風味プロファイル

サンマルコスで栽培される主な品種には、ブルボン(Bourbon)、カツーラ(Caturra)、カツアイ(Catuai)、ティピカ(Typica)があります。
一部の生産者は、ロブスタ(Robusta)、サーチモール(Sarchimor)、イカトゥ(Icatú)も栽培しています。
特別な品種としては、マダガスカルのレユニオン島で発見されたブルボンの自然突然変異種であるラウリナ(Laurina)があります。
ラウリナは、フローラルな香り、ミルクチョコレートのようなボディ、輝くようなライムの酸味、そしてカカオニブのような余韻を持つとされています。

太平洋の影響とカップ特性

太平洋の影響と山岳地帯が相まって、熱帯気候の中に多様なマイクロクライメート(微気候)を生み出しています。
この独特のマイクロクライメートが、サンマルコスコーヒーの特徴的な風味を形成します。
カップの特徴としては、繊細なフローラルノートが香りと味わいの両方に現れ、明確な酸味と良好なボディを持つことが挙げられます。

サンマルコスの小規模生産者たち

サンマルコスでは、小規模農家による協同組合が重要な役割を果たしています。
約400名のメンバーで構成されるアペカフォーム(APECAFORM)協同組合を代表例として、100%小規模農家による家族経営が続けられています。

約400名の小規模農家で構成されるアペカフォーム協同組合の集会|鹿児島コーヒー addCoffee

急峻な斜面での伝統的栽培

標高1,300~1,800メートルの急峻な斜面に点在する各農家は、数ヘクタールの土地でコーヒーを栽培しています。
シエラマドレ山脈の険しい地形での栽培は、機械化が困難なため、必然的に人の手による丁寧な作業を要求します。
アボカド、ホコテ、チャルムといった在来のシェードツリーの下で育てられるコーヒーは、化学肥料や農薬に頼らない伝統的な有機農法が守られてきた証です。

風味特性と品種の多様性

サンマルコスコーヒーの特徴は、繊細なフローラルノートが香りと味わいの両方に現れることです。
この特性は、太平洋の影響と地域独特のマイクロクライメートによってもたらされます。
地域ではブルボン、カツーラ、カツアイが主に栽培されていますが、一部の生産者はロブスタ、サーチモール、イカトゥも栽培しています。
各生産者が自身の土地の特性を理解し、それぞれの環境に最適な品種を選択することで、サンマルコス全体の多様性が生まれています。

降雨に対応する精製プロセス

サンマルコスの生産者たちは、地域の湧き水を使用してコーヒーチェリーのパルピングを行います。
多くの生産者は自宅で精製を行い、パーチメントコーヒーとして販売していますが、最小規模の生産者は協同組合のウェットミルで精製を行い、チェリーをそのまま持ち込むこともあります。

収穫期にまで継続する降雨は、パティオ(天日乾燥場)での乾燥を特に困難にします。
この課題に対し、サンマルコスの生産者たちは独自の対応を発展させてきました。
より多くの資源を持つ大規模な協同組合やプランテーションでは、短時間の天日予備乾燥の後、機械乾燥機を使用する方法を選択しています。

収穫期の降雨に対応するため機械乾燥機を使用するサンマルコス|鹿児島コーヒー addCoffee

一方、小規模生産者は天候と向き合いながら、パティオでの天日乾燥と低温の機械乾燥を併用し、雨季の長さに応じて乾燥方法を柔軟に調整しながら、伝統的な方法で丁寧にコーヒーを仕上げています。
この独特の気候条件への対応が、サンマルコスコーヒーの精製プロセスに独自性をもたらしています。

天候と向き合いながらパティオで天日乾燥を行う小規模生産者|鹿児島コーヒー addCoffee

サンマルコス注目の農園

サンマルコスには、国際的な評価を獲得している代表的な農園があります。

フィンカ・エル・プラタニージョ
世界初の気候中立認証農園

フィンカ・エル・プラタニージョ(Finca El Platanillo)は、サンマルコスを代表する347ヘクタールの農園です。
この農園の最大の特徴は、2016年に世界初の気候中立認証(Climate Neutral Certification)を取得したことです。
約30ヘクタールを自然保護区として保全し、農園内での狩猟を全面禁止するなど、環境保全への先駆的な取り組みを続けています。

品質面でも高い評価を得ており、2020年のカップ・オブ・エクセレンスでは、ゲイシャ『ミラドール』が10位を獲得しました。
農園内には150種類以上の品種試験園があり、サンマルコスの高降雨量環境に最適な品種の研究を続けています。
主な栽培品種は、パカマラ(Pacamara)、ゲイシャ(Geisha)、イカトゥ(Icatu)、ブルボン(Bourbon)です。

世界初の気候中立認証を取得したフィンカ・エル・プラタニージョ農園|鹿児島コーヒー addCoffee

フィンカ・ヌエバ・グラナダ
ラウリナ栽培の先進農園

フィンカ・ヌエバ・グラナダ(Finca Nueva Granada)は、エル・トゥンバドール地区(El Tumbador)に位置する675ヘクタールの大規模農園です。
ディーター・ノッテボーム(Dieter Nottebohm)が所有し、タフムルコ火山とタカナ火山に抱かれた標高1,800メートルの高地で、ゲイシャ、ラウリナ、ブルボン、カツアイ、カツーラなど複数の品種を栽培しています。

この農園は、世界的に希少な低カフェイン品種ラウリナ(Laurina)の栽培に成功しており、インガやマカダミアの木陰の下で丁寧に育てられています。
レインフォレスト・アライアンス認証を取得した最初の農園の一つであり、農園内に学校を設置して労働者とその家族に教育を提供するなど、社会的・環境的持続可能性への取り組みでも知られています。

インガとマカダミアの木陰で丁寧に育てられる希少品種ラウリナ|鹿児島コーヒー addCoffee

サンマルコスでラウリナという稀少品種栽培

低カフェインのブルボン変異種

フィンカ・ヌエバ・グラナダでは、世界的に希少な低カフェイン品種であるラウリナ(Laurina)の栽培に成功しています。
ラウリナはレユニオン島で発見されたブルボンの自然突然変異種で、ブルボン・ポワンチュ(Bourbon Pointu)としても知られています。
通常のアラビカ種が1.2%のカフェイン含有量を持つのに対し、わずか0.5~0.7%という低カフェイン含有量が特徴です。

世界的に希少な低カフェイン品種ラウリナのコーヒーチェリー|鹿児島コーヒー addCoffee

栽培が難しく、収量が通常の品種の5分の1程度しかないため極めて希少ですが、カフェインに敏感な人々や夜遅くでもコーヒーを楽しみたい愛好家から注目を集めています。
タフムルコ火山とタカナ火山の間という理想的な環境で、インガやマカダミアの木の日陰の下で丁寧に育てられ、特別に建設された乾燥施設でゆっくりと乾燥させられます。

独特の風味プロファイル

ラウリナは、フローラルな香り、ミルクチョコレートのようなボディ、輝くようなライムの酸味、そしてカカオニブのような余韻を持っています。
この複雑で繊細な風味プロファイルは、サンマルコスの独特なテロワール – 豊富な降雨量、火山性土壌、太平洋の影響を受けた微気候 – と、ラウリナという品種が持つ本来の特性が融合した結果です。
通常のアラビカ種とは明らかに異なる味わいを持ちながら、エキゾチックなバラエティとしてスペシャルティ市場で高く評価されています。

サンマルコスコーヒーの魅力と今後の展望

年間5,000mmという驚異的な降雨量と、中米最高峰の火山が育むサンマルコスコーヒー。
400名の小規模農家による協同組合、世界初の気候中立認証を取得した先進農園、そして希少なラウリナ種の栽培成功。

多様な生産者が織りなすこの産地は、グアテマラコーヒーの新たなフロンティアとして、その独自性で国際的な評価を高めています。
特に、高降雨量という環境特性は、気候変動が進む中で安定した生産を可能にする強みとなり、サンマルコスは持続可能なコーヒー産地としてのポテンシャルを秘めています。

スペシャルティコーヒー市場において、サンマルコスの独特なフローラル特性と早期収穫というアドバンテージは、今後さらなる注目を集めることが期待されます。

持続可能なコーヒー産地として国際的評価を高めるサンマルコスコーヒー|鹿児島コーヒー addCoffee

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