肝細胞がんは、がん関連死亡の世界第3位を占める疾患です。
2020年だけで90万人の新規症例と83万人の死亡が報告されています。
しかし2024年、希望の光が差しました。
45万人を対象とした研究で、コーヒーを飲む人の肝疾患死亡リスクが49%も低下することが判明したのです。
さらにコーヒーはB型肝炎ウイルスを抑制し、腸内細菌を介して肝臓を保護することも明らかになりました。
あなたの毎朝の一杯が、肝臓を守る可能性があります。
最新研究が解き明かした、コーヒーの肝臓病予防効果の分子メカニズムとその臨床応用について見ていきましょう。
この記事は、肝臓病予防に特化しています。
広域情報は『コーヒーの健康効果』がよく分かります。
MASLDの最新知見
代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は、世界で最も多い慢性肝疾患です。
日本では有病率が9~30%に達し、推定患者数は2,000~3,000万人にのぼります。
さらに深刻なのは、非ウイルス性肝がんが急増していることです。
肝がんによる死亡者数は年間約2万5千人で、その多くがMASLDから進行したケースと考えられています。
この病気の予防に、コーヒーが効果を発揮することが明らかになりました。
コーヒーが示す驚異的な予防効果
2024年に発表されたレビューによると、コーヒーを飲む人は、飲まない人と比べてMASLDの発症リスクが29%低いことが判明しました。
さらに驚くべきことに、メタ分析では1日2~4杯のコーヒー摂取が肝硬変リスクを84%も減少させることが示されました。
この保護効果は、統計的な相関ではなく、肝臓内の分子標的への作用によるものです。
コーヒーに含まれるクロロゲン酸は、肝細胞内の脂質代謝を改善し、脂肪の蓄積を防ぎます。
カフェインは肝臓のオートファジー(細胞の自己浄化作用)を活性化させ、損傷した細胞小器官や脂肪滴を除去する働きがあります。
45万人が証明した死亡リスクの低下
英国の45万5,870人を対象としたUK Biobank研究では、コーヒー摂取と肝疾患死亡率の関係が明らかにされました。
この研究では、逆確率重み付け(IPTW)という統計手法を用いて交絡因子を調整し、より正確な関連性を導き出しています。
1日1-2杯のコーヒー摂取は、MASLDを含む慢性肝疾患による死亡リスクを低下させることが示されました。
注目すべきは、この効果がカフェイン入りコーヒーだけでなく、デカフェコーヒーでも確認されたことです。
これは、コーヒーの肝保護効果がカフェイン以外の成分によっても媒介されていることを示しています。
参考:medicalnewstoday.com、PubMed Central、PubMed
参考:日本生活習慣病予防協会、肝がん白書令和4年度
腸内細菌叢を介した肝保護メカニズム
2024年、コーヒーと腸内細菌叢の関係について発見がありました。
米国と英国の2万2,867人を対象とした研究により、コーヒー摂取が特定の腸内細菌の増殖を促進し、それが肝臓保護につながることが明らかになったのです。
コーヒーが育てる有用な腸内細菌
この研究では、5万人を超えるデータを解析した結果、コーヒーを飲む人の腸内に特定の有用な細菌(Lawsonibacter asaccharolyticus)が増えることが確認されました。
この細菌は、腸のバリア機能を強化し、炎症を抑える働きを持っています。
そして腸肝軸(腸と肝臓をつなぐ相互作用の経路)を介して、肝臓の健康に貢献します。
さらにコーヒーは、善玉菌として知られるビフィズス菌を増やし、有害な細菌を減らす効果も確認されています。
腸内細菌がつくる肝臓の栄養素
コーヒーを飲むと、腸内細菌が食物繊維を発酵させて短鎖脂肪酸という物質を作り出します。
この短鎖脂肪酸が肝臓に届くと、肝臓のインスリン感受性を高め、脂質代謝を改善します。
マウス実験では、カフェインとクロロゲン酸がこの短鎖脂肪酸の働きを改善し、肝臓の炎症を予防することが示されました。
腸で起きた変化が、肝臓の健康につながるのです。
参考:Nature Microbiology、PubMed Central、Scientific Reports
肝細胞がん予防の分子メカニズム解明
肝細胞がんは世界で6番目に多く診断されるがんであり、がん関連死亡の第3位を占める疾患です。
2020年だけで90万人の新規症例と83万人の死亡が報告されています。
コーヒーがこの病気に対して予防効果を持つことが、分子レベルで解明されつつあります。
カフェインによる肝星細胞の不活化作用
2024年の研究で、カフェインが肝臓の線維化を防ぐメカニズムが明らかになりました。
カフェインは肝星細胞(肝臓を硬くする細胞)の働きを抑えることで、肝臓が硬くなるのを防ぎます。
ラット実験では、高脂肪食を与えた場合でも、カフェインが肝臓の線維化の進行を阻止することが確認されました。
この作用が、肝細胞がんの発症予防につながると考えられています。
パラキサンチン生成による線維化抑制効果
体内でカフェインが分解されると、パラキサンチンという物質が生成されます。
この物質は、肝臓の瘢痕組織の成長を遅らせる働きがあり、アルコール性肝硬変、脂肪性肝疾患、C型肝炎など、様々な肝疾患の進行を抑制する可能性があります。
さらに、コーヒーに含まれる別の成分も、がん細胞と戦う作用を持っています。
特に挽きたてコーヒーに多く含まれるこれらの成分は、肝細胞がんの治療と併用することで、より高い効果を発揮する可能性があると期待されています。
NLRP3インフラマソーム抑制による発がん予防
2022年の研究により、カフェインが肝臓の炎症を抑えて、がんの発症を防ぐメカニズムが提案されました。
カフェインは炎症を引き起こすタンパク質の働きを抑制し、その結果、肝臓の炎症、細胞の損傷、線維化、肝硬変への進行を防ぐというものです。
この炎症タンパク質は、アルコール性肝炎、脂肪肝、ウイルス性肝炎など、様々な原因による肝細胞がんの発症に関わっています。
カフェインがこの炎症を抑えることで、肝細胞がんの予防につながる可能性があります。
参考:dovepress.com、WebMD、PubMed Central
B型肝炎ウイルスへの抗ウイルス効果
コーヒーの肝保護効果は知られていますが、B型肝炎ウイルス(HBV)に対する抗ウイルス作用が確認されたのは最近のことです。
この発見は、世界中で2億5700万人以上が慢性感染しているB型肝炎の治療に可能性をもたらしています。
HBV DNA量を523IU/mL減少させる3杯の効果
2019年にマレーシア大学医療センターで実施された研究では、114名の慢性B型肝炎患者を対象に、コーヒー摂取とウイルス量の関係を24週間にわたって追跡調査しました。
その結果、1日3杯以上のコーヒーを飲む患者では、HBV DNA量が中央値で523IU/mL減少することが確認されました。
1日2杯のコーヒー摂取でも、B型肝炎表面抗原(HBsAg)レベルが中央値で37IU/mL減少しました。
多変量解析の結果、コーヒー摂取量の増加とALT値の低下が、HBV DNA量減少の予測因子であることが示されました。
デカフェでも確認された抗ウイルス作用
コーヒーの抗B型肝炎ウイルス効果は、カフェインレスコーヒーでも確認されています。
これは、コーヒーに含まれる酸性物質がB型肝炎ウイルスに対して抗ウイルス作用を持つ可能性を示唆しています。
研究者たちは、コーヒーが肝疾患との戦いにおいて武器になる可能性があると考えています。
既存の抗ウイルス薬と併用することで、効果的な治療戦略を構築できる可能性があります。
肝硬変患者への臨床応用と安全性
コーヒーの肝臓病予防効果について研究が行われてきましたが、肝硬変を発症している患者に対する治療的介入としての可能性も注目されています。
2024年の臨床試験では、カフェイン補給が肝硬変患者の肝機能と炎症を改善することが実証されました。
400mg/日カフェイン補給による肝機能改善
無作為化二重盲検プラセボ対照試験において、50名の肝硬変患者を対象に、1日400mgのカフェイン補給を8週間実施した結果、改善が確認されました。
カフェイン群では、プラセボ群と比較してAST値と血小板数が改善し、PTT(部分トロンボプラスチン時間)も短縮しました。
カフェイン補給は炎症性バイオマーカーを減少させました。
これは、カフェインの抗炎症作用と抗線維化作用が、肝硬変患者の合併症予防と死亡率低下に役割を果たす可能性を示しています。
1日400mgというカフェイン量は、コーヒー約4杯分に相当し、安全性も確認されています。
この用量は、健康な成人に推奨される上限量と同等であり、肝硬変患者でも忍容性が良好でした。
アルコール性肝疾患でも確認された保護効果
アルコール性肝疾患は健康問題ですが、コーヒー摂取がこの疾患に対しても保護効果を持つことが明らかになっています。
2024年の研究では、糖尿病がアルコール性肝硬変のリスクを3.68倍増加させる一方で、コーヒー摂取は肝硬変発症リスクを36%減少させることが示されました。
UK Biobankの研究では、デカフェ、インスタント、挽きたてコーヒーのすべてのタイプが、慢性肝疾患、脂肪肝、肝細胞がんのリスクを低減することが確認されています。
コーヒーを飲まない人と比較して、コーヒーを飲む人は、慢性肝疾患リスクが21%、慢性または脂肪性肝疾患リスクが20%、慢性肝疾患による死亡リスクが49%低下しました。
参考:ScienceDirect、Gastroenterology & Hepatology、BMC Public Health
毎朝のコーヒーが、あなたの肝臓を守る
腸内細菌を変化させ、肝臓の炎症を抑え、線維化を防ぐ。
コーヒーは単なる嗜好品ではなく、健康効果のパートナーです。
45万人の研究が示した49%の死亡リスク減少。
B型肝炎ウイルスの抑制効果。
肝硬変患者の肝機能改善。
あなたの毎朝の一杯が、10年後、20年後の肝臓の健康を左右します。
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