『このコーヒー、ブルーベリーの味がする!』
初めてスペシャルティコーヒーを飲んだ人の多くが、その衝撃的な味わいに驚きます。
コーヒー豆が本来持つ20~40種類の風味化合物が、適切な栽培・精製・焙煎によって1000種以上に爆増し花開いた結果です。
スペシャルティコーヒーの味の秘密を科学的に見てみましょう。

スペシャルティコーヒーとは?という方は、イントロダクションを先にどうぞ!

スペシャルティコーヒーとは?

フルーティーな酸味の正体

柑橘系からベリー系まで

スペシャルティコーヒーの最大の特徴である『フルーティーな酸味』。
これは、コーヒー豆に含まれる有機酸によるものです。
主要な酸として、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、リン酸などがあり、それぞれが異なる風味を生み出します。

クエン酸は柑橘系のフルーツ、特にレモンやオレンジのような爽やかな酸味を生み出します。
リンゴ酸は青リンゴのようなクリスプな酸味、酒石酸はワインのような複雑な酸味を与えます。
特に注目すべきは、高品質なスペシャルティコーヒーに多く含まれるリン酸で、スパークリングワインのような輝きのある酸味を作り出します。

高品質スペシャルティコーヒーに見られるスパークリングワインのような酸味|鹿児島コーヒー addCoffee

ワールド・コーヒー・リサーチ(World Coffee Research / WCR)の研究によれば、コーヒーには110種類の風味、香り、テクスチャー属性が確認されています。
その中でも『フルーティー』というカテゴリーには、ベリー類(ブラックカラント、ブルーベリー、ストロベリー)、トロピカルフルーツ(パッションフルーツ、マンゴー、パイナップル)、核果類(チェリー、アプリコット)などが含まれます。

スペシャルティコーヒーのトロピカルフルーツフレーバー|鹿児島コーヒー addCoffee

これらの風味は、コーヒーチェリーの糖分が豆に吸収される過程で形成されます。
特に、フルクトース(果糖)を多く含むイエローブルボンなどの品種は、より強い果実感を示します。
一方、グルコース(ブドウ糖)を多く含む品種は、より丸みのあるボディとチョコレートのような風味を生み出します。

酸味と酸っぱいの違い

『酸味(アシディティ)』と『酸っぱい(サワー)』は、コーヒーの世界では全く異なる概念です。
スペシャルティコーヒーにおける酸味は、『ブライトネス(明るさ)』や『ライブリネス(生き生きとした感じ)』として評価される、ポジティブな特性です。

先ほども記載しましたが、良質な酸味は、口の中で炭酸飲料のようなスパークリング感を生み出したり、フルーツのようなジューシーさを感じさせたりします。
これは、コーヒー豆が高地で栽培され、ゆっくりと成熟することで生まれる複雑な有機酸の組み合わせによるものです。
温度が低い環境では、糖の発達が促進され、同時に酸の複雑性も増します。

一方、『酸っぱい』は欠陥として扱われます。
これは主に、不適切な発酵、未成熟な豆の使用、または保存状態の悪化によって生じる不快な酸味です。
発酵が過度に進んだ場合は酢酸が生成され、文字通り酢のような不快な酸っぱさが生まれます。

専門家はこの違いを見分けるために、以下の要素を評価します:
持続性:良い酸味は口の中で心地よく広がり、すっきりと消える
バランス:甘みや苦味と調和している
複雑性:単一の酸味ではなく、複数の要素が層をなしている
温度変化:冷めても不快にならない

産地ごとの味わいマップ

アフリカ産の華やかな香り

アフリカ大陸、特にエチオピアとケニアは、世界で最も個性的なスペシャルティコーヒーを生産する地域として知られています。

エチオピア

『コーヒーの原産地』として、野生種に近い在来品種(エアルーム)が今も栽培されています。
特にイルガチェフェ地域のコーヒーは、ワインのような酸味と鮮烈なフローラルノートが特徴です。
ジャスミン、ベルガモット、レモンティーのような繊細な風味は、標高2,000メートル以上の高地栽培と、伝統的なナチュラル精製によって生み出されます。

エチオピアのジャスミンと柑橘の風味|鹿児島コーヒー addCoffee

ケニア

ケニアのコーヒーは、ブラックカラントのような濃厚なベリー系の風味で知られています。
SL28、SL34という独自の栽培品種と、『ケニア式ダブルファーメンテーション』と呼ばれる72時間の発酵プロセスが、この特徴的な味を作り出します。
リン酸を多く含む火山性土壌も、ケニアコーヒー特有のスパークリングな酸味に貢献しています。

ケニアのブラックカラント風味|鹿児島コーヒー addCoffee

ルワンダ、ブルンジ

他のアフリカ諸国も、近年品質向上が著しく、紅茶のような繊細さとトロピカルフルーツの風味を持つコーヒーを生産しています。
これらの国々では、1994年のルワンダ虐殺後の復興プログラムの一環として、スペシャルティコーヒーの生産に力を入れており、品質は年々向上しています。

ルワンダの紅茶のような繊細さ|鹿児島コーヒー addCoffee

中南米産のバランス型

中南米は世界のコーヒー生産の中心地であり、バランスの取れた味わいのスペシャルティコーヒーを生産しています。

コロンビア

カラメル、チョコレート、ナッツのような甘みと、穏やかな柑橘系の酸味のバランスが特徴です。
アンデス山脈の火山性土壌と、年間を通じて安定した気候が、このバランスの良さを生み出します。
特にウィラ県やナリーニョ県の高地で栽培されるコーヒーは、より複雑で洗練された風味を持ちます。

コロンビアのチョコレートとナッツの風味|鹿児島コーヒー addCoffee

コスタリカ

『ハニープロセス発祥の地』として知られ、明るい酸味とトロピカルフルーツの甘みが特徴です。
タラス地域のコーヒーは、オレンジやアプリコットのような風味に、ブラウンシュガーのような甘みが加わります。
環境保護に熱心な国として、シェードグロウン(日陰栽培)が普及しており、これがコーヒーの複雑性を高めています。

コスタリカのハニープロセス風味|鹿児島コーヒー addCoffee

パナマ

パナマのゲイシャ種は、世界で最も高価なコーヒーの一つです。
ジャスミン、ベルガモット、トロピカルフルーツの風味と、シルキーな口当たりが特徴で、まるで高級な紅茶のような繊細さを持ちます。
エスメラルダ農園のゲイシャは、2017年に1ポンドあたり601ドルという記録的な価格で落札されました。

パナマゲイシャの繊細な風味|鹿児島コーヒー addCoffee

アジア産の個性派

アジア太平洋地域のコーヒーは、他の地域とは一線を画す独特な風味プロファイルを持ちます。

インドネシア

スマトラ島で生産されるマンデリンは、『ウェットハル(ギリンバサ)』という独特の精製方法により、アーシー(土っぽい)、ハーバル(薬草のような)、スパイシーな風味を持ちます。
この精製方法では、豆が完全に乾燥する前にパーチメントを除去するため、独特の深緑色と、タバコやシダーウッドのような風味が生まれます。

パプアニューギニア

豊かな熱帯雨林の土壌が生み出す、甘みの強いコーヒーで知られています。
昼夜の激しい温度差がチェリーにストレスを与え、糖度を高めます。
アルーシャ、ブルボン、ティピカのブレンドが一般的で、ハーブのような香りと強い甘みが特徴です。

インド

インドのコーヒーは地域により大きく異なります。
南部のコーヒーはフルボディで酸味が少なく、アーシーな風味(土の香り、湿った土)が特徴。
一方、西ガーツ地方のコーヒーは明るい酸味とフルーティーな風味を持ちます。
モンスーンマラバールという独特の処理方法では、モンスーンの湿気にさらすことで、独特の熟成した風味を作り出します。

精製方法で変わる味の方向性

ウォッシュドのクリーンな味

ウォッシュド(水洗式)は、世界で最も広く採用されている精製方法で、クリーンで明瞭な味わいを生み出します。

この方法では、収穫後すぐにデパルパー(果肉除去機)でチェリーの果肉を除去し、12~36時間の発酵槽での発酵を経て、ミューシレージ(粘液質)を完全に洗い流します。
その後、パーチメント付きの状態で乾燥させます。

ウォッシュド精製工程|鹿児島コーヒー addCoffee

ウォッシュド精製の特徴

明るい酸味 果肉の影響を受けないため、豆本来の酸味が際立つ
クリーンカップ 雑味のない透明感のある味わい
複雑性 テロワール(土壌・気候)の特徴が明確に表現される
一貫性 品質のばらつきが少ない

科学的には、発酵過程で乳酸菌がペクチンを分解し、豆の細胞壁の構造を変化させます。
これにより、焙煎時の熱伝導が均一になり、クリーンな風味が生まれます。

ナチュラルの果実感

ナチュラル(乾式)は、最も古い精製方法で、チェリーをそのまま乾燥させてから果肉を除去します。

収穫したチェリーを、アフリカンベッドと呼ばれる網状の乾燥台に広げ、2~4週間かけて天日乾燥させます。
この間、チェリーの糖分と風味成分が豆に浸透し、独特の果実感が生まれます。
水分含有率が11~12%になったら、ハリング(脱穀)して生豆を取り出します。

ナチュラル精製工程|鹿児島コーヒー addCoffee

ナチュラル精製の特徴

強い果実感 ベリー、トロピカルフルーツ、ワインのような風味
重厚なボディ 糖分の浸透により、シロップのような質感
低い酸味 発酵による酸の分解で、まろやかな味わい
複雑な甘み フルクトースとグルコースの相互作用による多層的な甘み

2022年の研究では、ナチュラル精製により2-フラメタノールという揮発性化合物が21.52~32.53%の相対存在度で生成され、これが特徴的な甘い香りの主要因となることが判明しました。

ハニープロセスの甘み

ハニープロセスは、ウォッシュドとナチュラルの中間的な精製方法で、果肉を除去した後、ミューシレージを残したまま乾燥させます。

ハニープロセス精製工程|鹿児島コーヒー addCoffee

ハニー精製の特徴

ミューシレージの残存量により、以下のように分類されます

ホワイトハニー 10~20%残存、ウォッシュドに近いクリーンさ
イエローハニー 30~40%残存、バランスの良い甘みと酸味
レッドハニー 50~70%残存、フルーティーで甘い
ラックハニー 80~100%残存、ナチュラルに近い重厚な果実感

コスタリカで地震による水不足から生まれたこの方法は、環境に優しく(水使用量が少ない)、かつ複雑な風味を生み出すことから、世界中に広まりました。
ミューシレージに含まれる糖分が、カラメル、はちみつ、赤い果実のような風味を付与します。

他の精製

浅煎りでスペシャルティコーヒー本来の個性

なぜ深煎りにしないのか

スペシャルティコーヒーが浅煎りで提供される理由は、豆本来の複雑な風味を最大限に引き出すためです。

スペシャルティコーヒーの浅煎り焙煎風景|鹿児島コーヒー addCoffee

焙煎は177℃~204℃の温度帯で行われ、『ファーストクラック(一爆)』と呼ばれる350℉(約177℃)付近でポップコーンのような破裂音が聞こえます。
浅煎りは、このファーストクラック直後、内部温度が385~410℉(196~210℃)の段階で止めます。

浅煎りが選ばれる科学的理由
1. メイラード反応の制御:糖とアミノ酸の反応を適度に進めることで、カラメル化を抑え、果実の風味を保持
2. 揮発性化合物の保存:風味化合物が過度な熱で失われることを防ぐ
3. 有機酸の維持:クエン酸、リンゴ酸などが分解される前に焙煎を止める
4. 細胞構造の維持:過度な膨張を防ぎ、複雑な風味の層を保つ

深煎りにすると、430℉(221℃)以上の『セカンドクラック(二爆)』を経て、豆の表面に油が浮き出し、炭化が進みます。
この段階では、産地特性や品種の個性はほぼ失われ、焦げによる苦味とスモーキーな風味が支配的になります。

参考:JavaPresse Coffee Company など

適切な焙煎度の見極め方

適切な焙煎度は、豆の密度、水分含有量、品種、精製方法によって異なります。
プロのロースターは、以下の要素を考慮して焙煎プロファイルを決定します。

密度による調整

高地産(1,500m以上)の高密度豆:熱伝導が遅いため、より長い焙煎時間が必要
低地産の低密度豆:熱が早く伝わるため、短時間での焙煎が適切

精製方法による違い

ウォッシュド:構造が均一なため、高温短時間焙煎が可能
ナチュラル:糖分が多いため、低温長時間でカラメル化を制御
ハニー:中間的なアプローチで、糖分の量により調整

焙煎度の判断基準

1. :アグトロン(Agtron)スケールで63~48(ミディアムライト)
2. 香り:フローラル、フルーティーな香りが残っている
3. 豆の膨張率:15~20%の体積増加
4. 重量減少:12~15%の範囲内

最新の焙煎技術では、豆の内部温度をリアルタイムでモニタリングします。
『デベロップメント・タイム・レシオ(Development Time Ratio / DTR)』と呼ばれる、全焙煎時間に対するファーストクラック後の焙煎時間の比率を20〜25%に保つことで、最適な風味発達を実現しています。

🔍 焙煎時間の比率を20〜25%とは

例:全焙煎時間が10分の場合、ファーストクラック後2〜2.5分で焙煎を止める

スペシャルティコーヒー専門店|鹿児島コーヒー addCoffee

自宅でスペシャルティコーヒーを体験

スペシャルティコーヒーの世界は、まさに味覚の冒険です。
1000種類以上の風味化合物が織りなす複雑な味わいは、ワインを超える多様性を持ちます。
産地、品種、精製方法、焙煎度の組み合わせにより、無限の可能性が広がっています。
まずは一杯、ブラックで味わってみてください。
その複雑で豊かな世界に、きっと驚かれることでしょう。

スペシャルティコーヒーを自宅で楽しむ朝|鹿児島コーヒー addCoffee

水の選択

水はコーヒーの98%を占める重要な要素です。
理想的な水は、ミネラル分が適度に含まれた軟水から中硬水です。
日本の水道水(硬度20〜80mg/L程度)は概ね適していますが、硬度150mg/L以上の硬水では苦味が強くなり、逆に硬度30mg/L以下の軟水では酸味が際立ちすぎます。
pH(酸性・アルカリ性の指標)は6.5〜7.5の中性付近が理想的です。

温度管理

浅煎りのスペシャルティコーヒーは、90~93℃での抽出が最適です。
温度が低いと酸味が強くなりすぎ、高すぎると苦味が出ます。
異なる温度で同じ豆を抽出すると、全く異なる風味プロファイルを体験できます。

挽き目と抽出時間

プアオーバー(Pour Over(ドリップ))では中挽き、抽出時間2分30秒を基準に。
グラインダーの性能は、風味に直接影響します。
粒度分布を均一になるグラインダーを選びます。過抽出と未抽出のばらつきを防ぎます。

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