『アラビカ種(Coffea arabica)』は、さらに多くの品種に分けられることを知る消費者は多くはない。
世界中に流通するコーヒーの大半が、今も昔も変わらず原産国で取引されているからだ。
複数の農園のコーヒー豆を扱っていた場合、生産者がどの品種を栽培していたのか、輸出する段階にはわからなくなってしまう。
唯一分かることは、世界のどの地域で栽培されたコーヒーかということだけだ。

しかし、アラビカ種には『ゲイシャ』や『エアルーム』といった在来種が多様に存在する。
エチオピアでは今も多くのコーヒーが森林や半森林の中で野生に近い形で育てられており、その遺伝的多様性は世界でも群を抜いている。
まさにエチオピアが『コーヒーのルーツ』と呼ばれるゆえんだ。

アラビカ種!その他の品種 - アラビカ種遍歴図|鹿児島コーヒー addCoffee

アラビカ系譜(品種系統)

アラビカ種の血統を持つ品種で、特によく栽培されているコーヒーノキを列挙した。
冒頭にも記載したが、『ゲイシャ』などその品種が特別な注目を集めていない限り、それら品種を指定して飲むことはなかなか困難である。
しかし、まだ工事中であるが、さらに深掘りしたいマニアはリンク先を覗いてみるといい。

ティピカ(Typica)
アラビカ種の原点に近い品種で、すっきりとした味わいと繊細な酸味が特徴。
花や柑橘系の香りがあり、バランスの取れた風味が魅力。収量は少ないものの、その上品な味わいで多くの愛好家に支持される。

ブルボン
甘みが強く、まろやかな口当たりが特徴。キャラメルや赤い果実のような風味があり、豊かな味わいを楽しめる。フランス領ブルボン島から広まり、現在も多くの産地で愛されている品種。

ムンド・ノーボ
ブルボンとティピカの自然交配で生まれた品種。成長が早く収量が多いため、生産性に優れている。
味わいはバランスが良く、適度なコクと甘みを持ち、親しみやすい風味が特徴。

カトゥーラ
ブルボンの突然変異種で、低木で密集栽培が可能なため、生産性が高いのが特徴。
風味はバランスが良く、やや明るい酸味と甘みを持つ。中南米で広く栽培され、高品質なコーヒーとして評価されている。

カトゥアイ
カトゥーラの突然変異から生まれた品種で、病害に強く高収量なのが特徴。
風味はバランスが良く、ほどよい甘みと酸味を持ち、コクもある。中南米で広く栽培され、安定した品質で人気のある品種。

マラゴジッペ
ティピカの突然変異で生まれた品種で、通常のコーヒー豆よりも大粒なのが特徴。
風味は穏やかで、軽めのボディとやわらかな酸味を持つ。メキシコやブラジルなどで栽培され、個性的な見た目と繊細な味わいで知られる。

SL28
ケニア発祥の品種で、鮮やかな酸味と甘みが魅力。
黒スグリや柑橘系の風味が際立ち、乾燥耐性に優れるため、高品質なコーヒーとして評価される。特にケニア産は複雑で奥深い風味があり、スペシャルティ市場で人気。

SL34
ケニアで開発された品種で、豊かなボディと甘みを持つ。
黒スグリやプラムのような風味が特徴で、雨の多い環境に適応。複雑な味わいとしっかりしたコクがあり、スペシャルティ市場で高く評価される。

ゲイシャ
華やかな香りと繊細な風味で知られる品種。ジャスミンやベルガモットのようなフローラルな香りと、柑橘系の明るい酸味が特徴。標高の高い環境で栽培されることで品質が向上し、特にパナマ産はスペシャルティ市場で高く評価される。

パーカス
ブルボンの突然変異で、コンパクトな木の形状を持ち、生産性に優れた品種。酸味と甘みのバランスが良く、クリーンな味わいが特徴。中南米で広く栽培され、標高の高い地域ではより洗練された風味を楽しめる。

ビジャ・サルチ
コスタリカで発見されたブルボンの突然変異種で、小型の樹形と適応力の高さが特徴。風味は甘みが強く、フローラルな香りと明るい酸味を持ち、高地で栽培すると品質が向上する。スペシャルティ市場でも評価が高い品種。

パカマラ
パーカスとマラゴジッペの交配種で、大粒の豆が特徴。クリーミーな質感と濃厚な甘みを持ち、チョコレートやトロピカルフルーツの風味が楽しめる。標高の高い産地ではより複雑な風味を生み出し、スペシャルティ市場で高く評価される。

ケント
インドで開発された品種で、病害に強く安定した収量を持つ。酸味とコクのバランスが良く、紅茶のような繊細な風味が感じられることもある。特にインドや東南アジアで広く栽培され、品質の高いコーヒーとして評価される。

S795
インドで開発された品種で、ケントとブルボンの交配種。スパイスやナッツのような風味があり、しっかりしたボディを持つのが特徴。病害に強く、安定した収量を誇るため、インドや東南アジアで広く栽培され、深みのある味わいが評価されている。

アラビカの野生種

上述の品種のほとんどはティピカから派生しているため、遺伝子的に非常に似通った特徴を持つ。
一方で現在エチオピアで栽培されている品種の大半は、選別された栽培品種ではなく、恐らくであるが、他の品種と自然交配により自生した野生種である。
こうした野生種の分類などまだ調査が進んでいない。

バラエティ(variety)とバラエタル(varietal)

コーヒー業界では、「バラエティー(variety)」と「バラエタル(varietal)」は異なる意味を持つ。

バラエティー(Variety)

植物学的な分類を指し、コーヒーの品種そのものを意味します。例えば:

  • ブルボン種(Bourbon)
  • カトゥーラ種(Caturra)
  • ゲイシャ種(Geisha) これらはすべてアラビカ種の**バラエティー(品種)**に該当します。つまり、「コーヒーの品種名」として使われる用語です。

バラエタル(Varietal)

**ワインやコーヒーの業界で使われる「原料の特徴」**を示す言葉で、そのコーヒーが特定の品種(バラエティー)から作られていることを意味します。例えば:

  • 「このコーヒーは**バラエタル・ゲイシャ(Varietal Geisha)**です。」
    → ゲイシャ種だけを使用したコーヒー
  • 「**バラエタル・ブルボン(Varietal Bourbon)**の風味は素晴らしい。」
    → ブルボン種のみを使用

つまり、「バラエティー」は品種そのもの、「バラエタル」はその品種を使ったコーヒーという違いがあります。

ワインでも「バラエタルワイン(Varietal Wine)」という言葉があり、「ブドウの単一品種から作られたワイン」という意味で使われます。コーヒーにもこの考え方が応用されているんですよ。

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