『グラインダーとはバリスタツールの中で一番重要』― 国内外バリスタの共通見解です。
グラインダーを性能アップするだけで、コーヒーが数段味わい深くなるから不思議です。
近年、200ドル台で10年前の600ドルモデルに匹敵する性能が手に入る『グラインダー黄金時代』。
最新のコーヒーグラインダー情報をご案内します。
グラインダーとは?失敗しないための基本
グラインダーの種類
コーヒーグラインダーには主に2種類あります。
本格的なバーグラインダーと、安価なブレードグラインダー。
バーグラインダーとは
バーグラインダーは2枚の刃(バー)で豆を挟み込んで粉砕します。
粒度が均一で、細かさの調整が正確にでき、摩擦熱が少ない設計のため豆の風味を保ちやすいのが特徴です。
エスプレッソから粗挽きまで、さまざまな専用機がそろっており本格的なコーヒー抽出に最適です。
プロや愛好家はバーグラインダーを選択します。
ブレードグラインダーとは
ブレードグラインダーは、プロペラ状の刃を高速回転させて豆を砕きます。
そもそも、ブレードグラインダーはコーヒーグラインダーとは違いますが、ブランドのプロモーションで『コーヒーも挽ける』とあるので勘違いします。
ブレードグラインダーは、粒度が不均一になるため抽出にムラが生じ、摩擦熱で豆に過剰なストレスがかかるため、コーヒーの味わいを大きく損ないます。
美味しいコーヒーを飲むなら、バーグラインダーでなければなりません。
バーグラインダー刃の種類
平刃vs.コニカル刃
バーグラインダーには、刃(バー)は大きく分けて2種類です。
コニカル刃(コニカルバー)と平刃(フラットバー)。
どちらが優れれいるというわけでなく、選択は何をよく飲むか?で決まります。
平刃とは
平刃(フラットバー)とは、2枚の円盤状刃が平行に配置される構造です。
豆は中央の穴から供給され、遠心力により外側へ押し出されながら切削されます。
平刃では平行性のみが重要となり、同心性を考慮する必要がないため、より高い粒度均一性を実現できます。
最近の潮流は平刃です。
スペシャルティコーヒーをお考えの場合、エスプレッソでもドリップでも平刃一択と覚えてください。
また、豆の持つポテンシャルを引き出すために、グラインダーがエントリーレベルでは困難です。
家庭用でも平刃64mm以上が理想ですが、最低でも55mmは確保したいところです。
コニカル刃とは
コニカル刃(コニカルバー)とは、円錐形の内刃と外刃の組み合わせで構成されています。
豆は垂直方向に落下しながら、螺旋状の切削経路を通過します。
重力を利用した豆の供給により、刃への負荷が均等化され、熱の発生も抑えられています。
コニカル刃を選択するシーンは、クラシカルなエスプレッソ(深煎り豆)の場合です。
スペシャルティコーヒー平刃一択
豆のクオリティ | ドリップ用 | エスプレッソ用 |
スペシャルティコーヒー 浅煎り – 中煎り |
理想:平刃64mm以上 最低:平刃55mm |
理想:平刃64mm以上 最低:平刃55mm |
コマーシャルコーヒー 中煎り – 深煎り |
平刃55mm以上 | コニカル刃 |
☕ スペシャルティコーヒーは深煎りNG
同様にコーマーシャルコーヒーなど、クオリティ重視でない豆を浅煎りにするシーンはそう多くないでしょう。
☕ スペシャルティコーヒーとは
アウトドアの手動グラインダー
スペシャルティコーヒーで平刃一択とは電動グラインダーの場合です。
手動グラインダーに平刃もありますが、サイズが確保できませんし、トルク確保が困難なので選択肢から外します。
しかし、アウトドアで飲むスペシャルティコーヒーは、それはそれは美味しいものです。
コニカル刃だろうが、特殊刃だろうが、アウトドアではグラインダー特性なんてどうでもいいのです。
刃(バー)はコーヒーグラインダーの命です。
失敗がないようキチンと理解をおすすめします。
プロがこだわる粒度分布
コーヒーの抽出において、粒度分布(Particle Size Distribution / PSD)は味を決定づける最重要要素です。
挽きたてでも、粒度分布が崩れていれば、コーヒー豆のポテンシャルを十分に引き出せません。
エスプレッソには平均0.23mm、ドリップには0.6-0.8mm、フレンチプレスには1.2mm以上という基準がありますが、重要なのは平均値ではなく『分布の形状』です。
バイモーダルとユニモーダル
2つの粒度分布パターン
コニカル刃のバイモーダル
コニカル刃が生成するバイモーダル(Bimodal distribution / 二峰性)分布は、主要なピークとファインズ(微粉)のピークという2つの集中域を形成します。
この構造的特性が、かえって粒度の多様性を生み出し、エスプレッソのボディ感を豊かにする要因となっています。
ファインズと大粒子の2つのピークを持つこの分布は、エスプレッソのクレマとボディを生成するのに有効ですが、均一性は劣ります。
平刃のユニモーダル
平刃が生成するユニモーダル(Unimodal distribution / 単峰性)分布では、粒子サイズの大部分が類似しており、ファインズ(微粉)とボルダー(粗粒)を最小限に抑えた、ほぼ同一サイズの粒子を作り出します。
この均一な粒度により、すべての粒子が同じ速度で抽出されます。
各粒子から可溶性物質が均等に溶出するため、部分的な過抽出や未抽出を防げ、酸味から甘みまで、コーヒー本来の複雑な風味がバランスよく表現されます。
悪さをするファインズ
ジョナサン・ガニェ(Jonathan Gagné)氏の24台のグラインダーから得た300回の粒度分布データの分析によると、コーヒーの調整は『平均粒子サイズ』も大事ですが、『ファインズ(微粉)の割合』ですべてが台無しになると報告しています。
ファインズ(100ミクロン以下の微粉)は以下の影響を与えます。
● エスプレッソ:過剰なファインズはパックを詰まらせ、水流を遅くし、過抽出やチャネリングを引き起こす。
● フィルター:適度なファインズは許容されるが、過剰だとベッドの透過性が低下し流速が遅くなる。
すべてのバリスタは、感覚でファインズの影響は知っていますが、24台のグラインダーから300の粒度分布データを同一条件で収集・分析した研究は、公開されている研究としては実際に類を見ない規模です。
グラインダー選び5つのポイント
1. 用途の優先順位
『エスプレッソ70%:ドリップ30%』なのか『ドリップ90%:エスプレッソ10%』なのかで、最適な選択は大きく変わります。
万能機は存在しますが、特化型には敵いません。
エスプレッソ中心なら、200ミクロン以下の安定した微細粉砕が必要。
ドリップ中心なら、600-800ミクロンの均一性が重要。
両立を求めるなら、SSP MPのような交換可能なバーシステムを検討すべきです。
2. 見落としがちな『音』
マンション住まいや早朝使用を考慮すると、音も配慮すべきですが、カタログ掲載は多くありません。
コーヒーの品質を求めると、刃が大きくなるので騒音も考えなければなりません。
防音マットやタイマー予約機能の活用も検討のひとつです。
● コニカル手挽き:40-50dB(図書館レベル)
● コニカル電動:65-75dB(会話よりやや大きい音)
● フラット電動:75-80dB(掃除機レベル)
● 大径フラット:80-85dB(交差点・騒々しい事務所レベル)
3. メンテナンスコスト
初期投資だけでなく、ランニングコストも頭に入れておきましょう。
特に海外製品は、部品入手やサポート体制を事前確認必須です。
● バー交換:2-5年で1-3万円
● クリーニング用品:年間2000円
● 電気代:年間500-1000円
● 調整・修理:3年で5000-10000円
4. 重要な静電気対策
静電気による粉の飛散は、思った以上にストレスです。
特に冬場の乾燥時期は、この問題が顕著になります。
● RDT(Ross Droplet Technique):豆に霧吹きで微量の水分付与
● イオナイザー搭載モデルの選択
● 静電気防止スプレーの定期使用
● 湿度管理(50-60%維持)
5. 将来の拡張性
コーヒーへの情熱は成長します。
今は満足でも、1年後には物足りなくなる可能性大。
● バー交換可能か(64mm規格が最も選択肢豊富)
● 改造パーツの入手性(3Dプリント対応等)
● コミュニティの活発さ(情報交換、トラブルシューティング)
● リセールバリュー(人気モデルは中古でも高値維持)
価格別おすすめグラインダー〇〇選
電動グラインダー
手動グラインダー
グラインダーのトレンド
シングルドース方式の主流化
シングルドースとは、1杯分(通常15-20g)の豆だけをその都度グラインダーに投入する方式です。
従来のホッパー式(豆を大量にストックする方式)と異なり、以下の利点があります。
● 鮮度維持:豆を密閉容器に保管し、挽く直前に必要量だけ取り出す
● 豆の切り替え:朝はエチオピア、昼はコロンビアなど、簡単に変更可能
● 残留ゼロ:次回使用時に前回の豆が混ざらない
● 正確な計量:1杯ごとに重量管理が容易
最新モデルでは、残留量0.2g以下が当たり前に。
ベローズ(蛇腹式送風機構)、ノッカー(振動機構)、エアブローなど、各社独自の残留除去機構を開発。
DF64、Niche Zero、Fellow Odeなど、シングルドース専用設計のグラインダーが急増しています。
サステナビリティへの配慮
修理可能性(リペアラビリティ)重視の設計、リサイクル素材の活用、省エネ設計など、環境配慮が購入決定要因に。
EUの『修理する権利』法制化により、10年間の部品供給保証が標準化される見込みです。
マイグラインダーであなただけの最高の一杯
コーヒー豆は挽いてから15分で香りの多くは失われると言われ、挽き立てにはかないません。
ですが、これは『店舗での挽き売りが無価値』という意味ではありません。
高性能な業務用グラインダーで適切に挽かれた豆は、家庭用グラインダーで挽いた直後の豆より、はるかに均一で優れた抽出が可能です。
重要なのは『鮮度』と『粒度の均一性』のバランス。
スペシャルティコーヒーは専門店で購入する場合が多いでしょうから、専門店の高性能グラインダーで挽いてもらい、密閉容器で保管するというのも合理的な選択です。
毎日飲む方は、バーグラインダーの導入を検討すべきでしょう。
素晴らしいコーヒージャーニーの始まりを。