『今日、カフェでコーヒーを飲もう』 ── こんな何気ない一言に、実は1000年以上の言葉の冒険が隠されています。
驚くことに『カフェ』という言葉の語源は、コーヒーではなく『ワイン』だったのです。
アラビアの商人から始まり、ヨーロッパの宮廷を経て、現代の街角まで。
一つの言葉が辿った壮大な旅路には、人類の文化交流の歴史が刻まれています。

カフェの語源は『qahwah(カフワ)』から始まった

『カフェ』という言葉の始まりは、9世紀頃のアラビア語『qahwah(カフワ)』にさかのぼります。
しかし、この『qahwah』が最初に指していたのは、なんとコーヒーではなく『ワイン』だったのです。

アラビア語で『qahwah』は『食欲を失わせるもの』という意味を持っていました。
当時のアラビア人にとって、ワインは食べ物への欲求を抑える飲み物として認識されていたのです。

やがて15世紀頃、イエメンでコーヒーが飲み物として普及し始めると、人々はこの新しい飲み物にも『qahwah』という名前を付けました。
コーヒーもまた、ワインと同様に食欲を抑制する効果があると考えられたからです。

オスマン帝国を経てヨーロッパへ

アラビア語の『qahwah』は、オスマン帝国に伝わると『kahveh(カハヴェ)』と呼ばれるようになりました。
16世紀、オスマン帝国の首都イスタンブールには世界初のコーヒーハウスが誕生し、この『kahveh』という言葉と共にコーヒー文化が花開きました。

そして17世紀、ヨーロッパの商人や外交官たちがこの魅力的な飲み物をヨーロッパに持ち帰ります。
各国でコーヒーが広まるにつれて、言葉も各言語に適応していきました。

ヨーロッパ各国での言葉の変化

  • イタリア語:『caffè(カッフェ)』
  • フランス語:『café(カフェ)』
  • ドイツ語:『Kaffee(カフェー)』
  • 英語:『coffee(コーヒー)』

興味深いことに、どの言語でも元々のアラビア語『qahwah』の響きが残っています。

フランス語『café』が世界標準になった理由

現在、世界中で『カフェ』と呼ばれる喫茶店の語源は、フランス語の『café』にあります。
なぜフランス語が世界標準になったのでしょうか。

18世紀から19世紀にかけて、パリのカフェは知識人や芸術家の社交場として栄えました。
ヴォルテール、ルソー、後にはピカソやヘミングウェイまで、多くの著名人がパリのカフェに集いました。

この文化的影響力により、『café』という言葉は単なる飲み物を超えて、『洗練された社交空間』を意味するようになったのです。

日本における『カフェ』の受容

日本に『カフェ』という言葉が定着したのは、実は比較的最近のことです。
明治時代に日本に伝わったコーヒーは『珈琲』と漢字で表記され、その場所は『喫茶店』と呼ばれていました。

『カフェ』という呼び方が一般的になったのは、1990年代のスターバックス上陸以降のことです。
それまでの『喫茶店』とは異なる、よりカジュアルで国際的な空間を表現するために、『カフェ』という言葉が選ばれました。

世界各地の『カフェ』呼び方バリエーション

同じ語源を持ちながら、世界各地では独特の呼び方が発達しています。

  • スペイン:『Cafetería(カフェテリア)』
  • ポルトガル:『Pastelaria(パステラリア)』- ケーキ屋兼カフェ
  • オランダ:『Koffiehuis(コフィーハウス)』
  • ギリシャ:『Kafeneío(カフェニオ)』

独特な発展を遂げた地域

トルコでは今でも『kahvehane(カハヴェハネ)』という伝統的な呼び方が残っており、エチオピアでは『bunna bet(ブンナ ベット)』と呼ばれています。
エチオピアはコーヒー発祥の地でありながら、アラビア語由来の言葉ではなく、独自の言葉を使っているのは興味深い現象です。

Coffee Navi カフェという言葉の奥深さ

HOMEコーヒーの世界コーヒー超入門 ≫ カフェ語源はアラビア語でワイン!?

アラビア語の『qahwah』から始まり、現代の『カフェ』に至るまでの言葉の旅路をたどってきました。
『カフェ』という一つの言葉の変遷を追うと、人類の文化交流の歴史が見えてきます。
ワインを指していた言葉が、コーヒーを経て、最終的に『人々が集う空間』そのものを表すようになったのです。

言葉は単なる記号ではありません。
その背景には、無数の人々の生活と文化が刻まれています。
次回カフェでコーヒーを飲むときは、この小さな言葉に込められた壮大な歴史を思い出してみてください。

きっと、いつものコーヒータイムが少し特別なものに感じられるはずです。

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