『この1杯、1万円します』 ── そんな価格に驚いて手が止まるコーヒーがあります。
その名は『コピ・ルアク』。
高価な理由は“希少だから”だけではありません。
ある小さな動物、時代背景、そして味を左右する不思議な工程が関わっているのです。
この記事では、世界一高価と言われるコーヒーの裏側を、やさしく奥深く紹介します。
その名は『コピ・ルアク』
動物の名前がコーヒーに?
世界で最も高価なコーヒーとして有名な『コピ・ルアク』。
インドネシア語で『Kopi=コーヒー』『Luwak=ジャコウネコ』。
つまり、『ジャコウネコのコーヒー』という意味です。
ジャコウネコってどんな動物? 実はグルメな選別係
コピ・ルアクの豆は、ジャコウネコが一度食べて、排出したコーヒー豆を使って作られます。
この動物、実はとても嗅覚が鋭くて、完熟した甘いコーヒーチェリーしか食べないというこだわり派。
つまり、動物による“天然の目利き”が行われているというわけです。
なぜ排泄された豆が価値を持つのか?
発酵と風味の変化がカギ
ジャコウネコの体内では、コーヒー豆が消化酵素の影響で穏やかに発酵します。
この発酵によりタンパク質が分解され、苦味が和らぎ、丸みのある香りが生まれるとされています。
その結果、『チョコレートのよう』『ナッツのよう』と表現される風味に変化するのです。
コピ・ルアクの誕生は植民地時代の“逆転劇”だった?
そのルーツは17~18世紀、オランダ植民地時代のインドネシア。
当時、現地の農民たちは“コーヒーを飲むこと”を禁止されていました。
しかし、彼らはジャコウネコの糞から豆を拾って洗浄・焙煎し、こっそり飲んでいたのです。
コピ・ルアクは、搾取の時代に生まれた『庶民の知恵』だったとも言えるのです。
1粒ずつ手で拾って洗う?
驚くほど手間のかかる製造工程
自然に排泄されたコーヒー豆は、次のような流れで商品になります
- 森の中で“落とし物”を探し、1粒ずつ豆を回収
- 何度も水洗いして汚れと外皮を除去
- 日干しまたは温風で乾燥
- 焙煎してようやく商品化
大量生産が難しいため、手作業の労力も価格に含まれているのです。
スマトラ産とジャワ産で味わいも違う!?
- スマトラ島産:より濃厚で重厚なボディ感
- ジャワ島産:ややすっきり系で優しい風味
『コピ・ルアク』と一括りにされがちですが、地域や土壌によって風味が異なるのも、知る人ぞ知る魅力です。
倫理的にはどうなの?
飼育型コピ・ルアクの問題
需要の高まりにより、ジャコウネコをケージに閉じ込め、無理にチェリーを食べさせる飼育型生産が問題視されてきました。
- ジャコウネコの健康悪化
- 無理な餌付けで風味が逆に悪くなる
- 野生保護や動物福祉に逆行する事例も
現在では、“野生由来かどうか”の表示や、サステナブル認証を重視する動きも強まっています。
COFFEE ナビ
動物、歴史、人の手間 ・・・ それ全部が“高価さ”に詰まっている
- ジャコウネコという生き物の選り好み
- 植民地時代の逆境から生まれた世界一のコーヒー
- 手間のかかる製造工程
- そして現代の倫理課題まで
まさに『話題と賛否の尽きないコーヒー』です。
『ただ珍しいから高い』のではなく、コピ・ルアクには物語と矛盾を内包した奥行きがあります。