アメリカーノ(Caffè Americano)は今、大きな転換期を迎えています。
2000年代から始まったサードウェーブコーヒーの波は、伝統的な深煎りエスプレッソから、浅煎りシングルオリジンを使った新しいアメリカーノへと変化をもたらしました。
フルーティーで華やかな香り、明るい酸味と自然な甘み ── これがスペシャルティコーヒーで作る現代のアメリカーノです。

スペシャルティ?という方は『スペシャルティコーヒーとは?』をどうぞ。

スペシャルティコーヒーとは?

サードウェーブが変えた現代のアメリカーノ

豆の個性を引き出す新しいアメリカーノ

1990年代に生まれた『サードウェーブコーヒー』という概念は、アメリカーノの世界を大きく変えました。
サードウェーブとは、スペシャルティグレードのコーヒーで、ワインのように、産地や品種、精製方法にこだわり、単一農園(シングルオリジン)の豆本来の個性を楽しむムーブメントです。

従来の深煎りエスプレッソで作る苦くて濃厚なアメリカーノから、浅煎りから中煎りの豆を使った、まったく新しい味わいのアメリカーノへ。
エチオピアのフローラルな香り、コロンビアのチョコレートのような甘み、ケニアのブラックカラントを思わせる酸味 ── 産地ごとの個性(テロワール)が、一杯のアメリカーノの中で花開きます。

サードウェーブコーヒーが変えたアメリカーノ|鹿児島コーヒー addCoffee

シカゴのIntelligentsia Coffee & Tea、ポートランドのStumptown Coffee Roasters、ノースカロライナのCounter Culture Coffee。
アメリカのサードウェーブを牽引するこれらのロースターは、農園との直接取引を通じて最高品質の豆を調達し、その個性を最大限に引き出す焙煎と抽出方法を追求しています。

アメリカーノ誕生|戦争が生んだコーヒー文化

第二次世界大戦中、イタリアに駐留していたアメリカ兵たちは、現地のエスプレッソの強烈な味に困惑していました。
当時のアメリカではドリップコーヒーが主流で、薄くてマイルドな味わいに慣れていた兵士たちにとって、イタリアのエスプレッソは『あまりにも苦く、あまりにも濃く、あまりにも少ない』ものでした。

兵士たちはエスプレッソにお湯を加えることで、故郷の味に近いコーヒーを作り始めました。
イタリア人たちは、この『アメリカ人向けコーヒー』を皮肉を込めて『カフェ・アメリカーノ(Caffè Americano)』と呼ぶようになりました。

イタリア人がアメリカーノと皮肉を込めて名付けた瞬間|鹿児島コーヒー addCoffee

戦時中のアメリカ軍は、兵士一人あたり年間32.5ポンド(約14.7kg、約1000杯)ものコーヒー豆を消費していました。
米軍需品部隊(Army Quartermaster Corps)は、海外の兵士たちのために豆を焙煎し、挽いて、梱包して輸送するという大規模なオペレーションを展開。
コーヒーは兵士たちの士気を支える重要な物資だったのです。

戦争が終わり、帰国した兵士たちによってアメリカーノはアメリカにも広まりました。
1970年代にエスプレッソマシンが普及し始め、1990年代のスターバックスの台頭とともに、アメリカーノは真にアメリカのコーヒー文化に定着したのです。

アメリカーノがアメリカのコーヒー文化に定着した現代カフェ|鹿児島コーヒー addCoffee

ただし、オックスフォード英語辞典によると、1950年代の中央アメリカのスペイン語『café americano』(薄いコーヒーを指す軽蔑的な言葉)に由来するという説も存在します。

参考:Oxford English Dictionarywikipedia

世界のアメリカーノ・バリエーション

アメリカーノは世界中に広がる中で、各地で独自の進化を遂げました。

ロングブラック(Long Black)
オーストラリア/ニュージーランド

アメリカーノの進化系ロングブラック|鹿児島コーヒー addCoffee

お湯を先に入れてからエスプレッソを注ぐ、アメリカーノの『逆バージョン』。
通常100-120mlの水を使用し、アメリカーノより水量が少ないため、より濃厚な味わいが特徴です。
クレマが美しく保たれ、エスプレッソが上層に残ることで、飲み進めるにつれて味が徐々に変化していく楽しみがあります。
オーストラリアとニュージーランドの独自のコーヒー文化を象徴する、世界的に認知された飲み方です。

☕ロングブラックの作り方がスタンダードへ

スペシャルティコーヒーを扱うほとんどのバリスタは、アメリカーノでもお湯から注ぎます。
作り方は『エスプレッソは後から(ロングブラック方式)』が、今後スタンダードとなっていくでしょう。
違いは比率だけですね。

レッドアイ(Red Eye)
アメリカ

レッドアイアメリカーノにエスプレッソ追加のカフェイン爆弾|鹿児島コーヒー addCoffee

ドリップコーヒーにエスプレッソショットを追加した『カフェイン爆弾』。
名前の由来は、西海岸からニューヨークへの深夜便『レッドアイフライト』から。
徹夜で働く必要がある人々に愛される、究極の覚醒ドリンクです。

☕さらに強力なバリエーション

● ブラックアイ(Black Eye):エエスプレッソ2ショット使用
● デッドアイ(Dead Eye):エスプレッソ3ショット使用(死者も目覚める強さ!)

イタリアーノ(Italiano)
アメリカ西海岸

エスプレッソとお湯を1:1の同量で混ぜた、より濃厚なアメリカーノ。
『リトルバディ』『ダニー・デヴィート』という愛称でも親しまれています。

イタリアーノ濃厚な1対1のアメリカーノ|鹿児島コーヒー addCoffee

韓国のアイスアメリカーノ現象『オルチュガ』

韓国では、アイスアメリカーノが特別な地位を獲得しています。
『オルチュガ(얼죽아)』 ── これは『凍え死んでもアイスアメリカーノ(얼어 죽어도 아이스 아메리카노)』の略語で、2019年に初めて登場した新語です。
その年、韓国の冬は例年より寒かったにも関わらず、アイスコーヒーの売上が前年比40%も増加したことから生まれました。

驚異的な数字が物語る韓国のコーヒー愛

● 韓国人は年間平均353杯のコーヒーを消費(世界平均の2倍以上)
● スターバックス韓国:2015年にアイスドリンクの割合が51%に逆転、2023年には77%まで上昇
● 真冬の1月でも、アイスドリンクの売上が54%を占める
● アイスアメリカーノの愛称は『アア(아아)』

韓国の凍え死んでもアイスアメリカーノ文化現象|鹿児島コーヒー addCoffee

なぜ韓国人はアイスアメリカーノに夢中?

パルリパルリ(빨리빨리 / 早く早く)文化と、OECD加盟国で最長の労働時間を持つ韓国。
素早くカフェインを摂取する必要から、すぐに飲めるアイスアメリカーノが選ばれています。
また、韓国のオフィスは冬でも暖房が効きすぎており、室内では冷たい飲み物が好まれるのです。

🌟 K-POPスターの影響

なんといってもK-POPスターの影響は絶大でしょう。
BTSのSUGA、NCT DreamのJaeminなど、多くのK-POPアイドルがアイスアメリカーノ愛好家として知られています。

アメリカーノとアメリカンコーヒーの違い

日本では『アメリカン』という独自のコーヒーが存在しますが、アメリカーノとはまったく別物です。
アメリカーノはエスプレッソにお湯を加えて作るのに対し、アメリカンは浅煎り豆でドリップするか、ドリップコーヒーをお湯で薄めたもの。

アメリカーノにはエスプレッソ特有のクレマ(泡)があり、なめらかでコクのある味わいが楽しめますが、アメリカンはあっさりと軽い味わいが特徴です。
『アメリカンコーヒー』はアメリカでは通用しない和製英語で、本当にアメリカで飲まれているのはアメリカーノです。

アメリカーノ発祥の地、ミラノの新しい波

イタリアではエスプレッソ1杯が€1という価格規制の歴史があり、その価格帯が慣例となっていました。
€3以上でないと難しいスペシャルティコーヒーは困難でした。

しかし2016年、カナダ人のブレント・ジョプソン(Brent Jopson)がミラノに『オルソネロ・コーヒー(Orsonero Coffee)』を開店し、アメリカーノを含むスペシャルティコーヒーメニューを提供開始。

カナダ人のブレント・ジョプソンがミラノにオルソネロ・コーヒー開業|鹿児島コーヒー addCoffee

現在ミラノのスペシャルティカフェでは、エスプレッソ、カプチーノと並んで『アメリカーノ』が€3前後でメニューに掲載されています。
世界コーヒー焙煎チャンピオンのルーベンス・ガルデッリ(Rubens Gardelli)を筆頭に、イタリアのサードウェーブロースターたちが、浅煎りシングルオリジンを使った新しいアメリカーノを提案。

若い世代のイタリア人は新しいコーヒー文化に対してオープンマインドで、スペシャルティコーヒーの最良の顧客になりつつあると、イタリアSCAE教育コーディネーターのダヴィデ・コベッリ(Davide Cobelli)は語っています。

戦後80年、アメリカーノはついにイタリアで『観光客の飲み物』から『新世代の選択肢』へと変わり始めているのです。

参考:European Coffee TripPerfect Daily GrindGambero Rosso Internationalなど

アメリカーノ文化が息づくナポリの歴史的広場|鹿児島コーヒー addCoffee

自宅で作る2つのアメリカーノスタイル

伝統的アメリカーノ

深煎り豆(イタリアンローストやフレンチロースト)を使用。
主にプレミアムライン、稀にロブスタ種の豆。
抽出時間は25-30秒でダブルショット(約60ml)を抽出。
ナッツやチョコレートの風味、しっかりとしたボディが特徴、クラシックな喫茶店の味わいを楽しみたい方向け。

アメリカーノの伝統的な深煎りスタイル|鹿児島コーヒー addCoffee

スペシャルティアメリカーノ

浅煎り~中煎りのシングルオリジン豆を使用。
カップクオリティ80点以上のスペシャルティコーヒー。
抽出時間は20-25秒とやや短めが一般的ですが、当店(addCoffeeは27秒で調整)。
フルーティーでフローラルな香り、明るい酸味と自然な甘みが楽しめます。

スペシャルティコーヒー専門店で豆を選びます。
専門店でないとスペシャルティコーヒーの定義さえ知らない可能性があります。
アメリカーノのモダンなスペシャルティコーヒースタイル|鹿児島コーヒー addCoffee

必要な道具と作り方

● エスプレッソマシン(またはモカポット、エアロプレス)
● エスプレッソ用グラインダー(極細引き)

● エスプレッソ:シングルまたはダブルショット(30~60ml)
● お湯:120-180ml(温度70-80℃が理想)
● 比率:エスプレッソ1に対してお湯2-3

プロのワンポイント

お湯を先に入れてからエスプレッソを注ぐ方法がおすすめ。
これにより、エスプレッソの表面に浮かぶクレマ(黄金色の泡)が保たれ、香りと風味が逃げません。
より豊かな味わいが楽しめるのです。

新着スペシャルティコーヒー

新世代スペシャルティアメリカーノ

第二次世界大戦の戦場で生まれたアメリカーノは、今や世界中で愛される定番コーヒーとなりました。
イタリア人の皮肉から始まったこの飲み物が、韓国では新しい文化現象『オルチュガ』を生み出し、オーストラリアではロングブラックへと進化し、アメリカではレッドアイという強力なバリエーションを生み出しています。

そして今、サードウェーブという波により、アメリカーノは新たな転換期を迎えています。
フルーティーで華やかな香り、明るい酸味と自然な甘み ── スペシャルティコーヒーが提案する新しいアメリカーノです。

新世代スペシャルティアメリカーノ|鹿児島コーヒー addCoffee

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